親の年齢と子どもの双極性障害リスク:系統的レビューとメタ解析

ACTA PSYCHIATR SCAND, 145, 568-577, 2022 Parental Age and the Risk of Bipolar Disorder in the Offspring: A Systematic Review and Meta-Analysis. Polga, N., Macul Ferreira de Barros, P., Farhat, L. C., et al.

はじめに

双極性障害(BD)は,躁病,軽躁病,うつ病のエピソードを特徴とする複雑な精神障害である。発症年齢の中央値が30~35歳であるため,BD罹患者は生産年齢の大半を通じてBD関連の障害や負荷を頻繁に経験する。いくつかの環境的危険因子のうち,出生時の親の年齢(父親または母親)は,統合失調症や自閉症などの多くの精神疾患と特に関連することが示されているが,BDにおけるその影響はまだ明らかでない。BDと親の年齢との関連を調べた観察研究は多いが,その結果はまちまちであり,結論は出ていない。その関連を明らかにするために,出生時の父親・母親の年齢と子どものBDのリスクについて系統的レビューとメタ解析を実施した。

方法

PubMed,PsycINFO,Embase,Web of Scienceにて“bipolar disorder”,“bipolar affective”,“bipolar illness”,“bipolar disease”,“manic-depressiv*”,“manic depress*”,“parental age”,“parent age”,“parents age”,“paternal age”,“maternal age”,“father age”,“mother age”の検索用語を使用し,2021年6月に検索を行った。親の出産時年齢(曝露)と子どものBDリスク(転帰)の関連を調査した研究を対象とした。父親年齢と母親年齢は別々に検討し,エフェクトサイズの指標としてオッズ比(OR)を使用した。

結果

3,183,539名の参加者と23,253名のBD患者を含む7研究(米国から2報,欧州から4報,イスラエルから1報の研究)がメタ解析に含まれた。Newcastle-Ottawa品質評価尺度(Newcastle-Ottawa Quality Assessment Scale:NOS)の中央値は7[4分位範囲(IQR)=7~8]であった。

メタ解析の結果,親の高年齢化と子どもの双極性障害リスクとの間には,父親と母親の出産時年齢のいずれにおいても,有意な用量反応関係が認められた。父親の年齢では,25~34歳と比較して,35~44歳[k=5,OR=1.09,95%信頼区間(CI):1.05-1.14,p<0.0001]及び45歳以上(k=5,OR=1.44,95%CI:1.19-1.74,p=0.0001)における子どものBDリスクが上昇することが示唆された。父親の年齢が25歳未満の子どもにおけるBDの有意なリスクは示されなかった。

母親の年齢では,20~29歳と比較して,40歳以上(k=3,OR=1.20,95%CI:1.10-1.31,p<0.0001)における子どものBDリスクの上昇も示唆された。母親年齢30~40歳あるいは20歳未満の子どもにおけるBDの有意なリスクは示されなかった。

考察

本研究では親の年齢が高くなると子どもの統合失調症発症リスクが上昇するという報告と同様の関連が見られ,父親あるいは母親の年齢が高くなると子どものBD発症のリスクが上昇することが示された。しかし,親の低年齢化と子どものBD発症リスクとの関連は示されず,この点が統合失調症発症リスクについての研究結果と異なった。

本メタ解析の限界としては,研究数が非常に限られており,特に母親の年齢についての研究は3報のみという点や,これらの研究の中でもかなり方法に差異があるという点,各研究のデータの多くは住民ベース調査から得られておりBDの診断が精神科医によって臨床的に厳密に行われていない点が挙げられる。

*ワイルドカード

256号(No.4)2022年10月14日公開

(内沼 虹衣菜)

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