【from Japan】
産褥期うつ病の経過が子どもの心理的問題に与える長期的な影響

Journal of Affective Disorders, 305, 71-76, 2022 Long-Term Effect of Persistent Postpartum Depression on Children’s Psychological Problems in Childhood. Hanae Tainaka, Nagahide Takahashi, Tomoko Nishimura, Akemi Okumura, Taeko Harada, Toshiki Iwabuchi, Md Shafiur Rahman, Yoko Nomura, Kenji J. Tsuchiya

元文献はこちらをご覧ください(外部サイトへ移動します)

田井中 華恵 先生(写真)

浜松医科大学医学部医学科総合人間科学講座(心理学)

名古屋大学医学部附属病院 親と子どもの心療科 髙橋 長秀 先生
浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 土屋 賢治 先生

田井中 華恵先生 写真

背景

子どもの心理的・行動的問題は,自己の内部に問題を含む「内在化問題」と行動上の問題として現れる「外在化問題」に分類される。就学前の内在化問題は,その後の認知・学業成績の低下に繋がることや,うつ病や他の精神疾患発症の高リスクとの関連が報告されている。また児童・思春期の外在化問題は,その後の心理社会的発達や適応を困難にする主要な危険因子である。内在化・外在化問題に関連すると考えられている危険因子の一つとして,母親の産褥期うつ病(postpartum depression:PPD)が挙げられる。

PPDは,PPDを発症しない群,一過性である群,持続する群,徐々に悪化する群の四つに分かれることが明らかになっているが,多くの先行研究では,母親のPPDが子どもの心理社会的問題に及ぼす影響を子どもが一定の年齢に達した時点で一度しか評価していないため,PPDの持続パターンが子どもの内在化・外在化問題に与える持続的な影響については十分に解明されていない。そこで本研究では,縦断的出生コホート研究である浜松母と子の出生コホート研究(HBC Study)から入手可能なデータを使用して,PPDのパターン(すなわち持続性と重症度)が複数の時点で測定した子どもの内在化・外在化問題と関連しているかどうかを検討した。

方法

産後2,4,10週,10ヶ月にエジンバラ産後うつ病尺度(Edinburgh Postpartum Depression Scale:EPDS)により母親のうつ病を測定し,1回以上のデータ欠損がない母親714名(62.7%),子ども768名(61.0%)を解析対象とした。

本研究では,PPDを産後12ヶ月以内に発生するうつ病エピソードと定義し,参加者を,①4週以前,②10週,③10ヶ月の時点でEPDS評点がカットオフ値を上回ったかどうかに応じて,①PPDなし群,②一過性PPD群,③PPD悪化群,④PPD持続群の4群に分類した。PPDの重症度は,10ヶ月時のEPDS評点を用いて,①重度PPD,②中等度PPDに分けた。

子どもの内在化・外在化問題は,日本語版子どもの強さと困難さアンケート(Strengths and Difficulties Questionnaire:SDQ)を使用し,6歳,8~9歳の時に親によって評価した。

統計解析では,PPDの持続性と,6歳,8~9歳時の子どもの内在化・外在化問題の関連を線形回帰分析によって解析した。また,線形回帰分析を用いて,PPDの重症度と6歳,8~9歳時の子どもの内在化・外在化問題の関連を検討した。

結果

交絡因子を統制した後も,PPDが持続することは,6歳時の内在化問題と関連していた(表)。しかし,8~9歳時では,PPDの持続性と内在化問題の関連は認められなかった。更に,PPDの持続性と6歳時及び8~9歳時の外在化問題との間には有意な関連が認められなかった。またPPDが持続する母親におけるうつ症状の重症度は,子どもの内在化・外在化問題の危険因子ではないことも示された。

結論

本研究では,PPDの持続性が子どもの内在化問題に影響していることが示されたが,その影響は一過性のものであることが明らかになった。先行研究では,産後8ヶ月の母親のPPDが11歳時の子どもの心理的問題に必ずしも悪影響を及ぼさなかったことが示されている。従って,今回の結果は,子どもにはPPDの影響に対する心理的な可塑性が備わっている可能性を示唆している。更に,持続的なPPDの悪影響に対して,その後の子どもの心理的・行動的問題との関連で働く保護因子が存在する可能性がある。今後,PPDの影響が6歳までに限られた原因を明らかにするために,PPDが子どもの心理的・行動的問題に与える影響を考慮し,より大きなサンプルサイズでの研究が必要である。

2022年8月 [no.4(256号)]

表.PPDの持続と子どもの6歳時点における内在化・外在化問題との関連

(田井中 華恵)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。