【テーマ:COVID-19①】
日本におけるCOVID-19に対する不安,過去の心的外傷,人間関係の変化について

J PSYCHIATR RES, 151, 377-381, 2022</I> Anxiety, Past Trauma and Changes in Relationships in Japan during COVID-19. Goodwin, R., Takahashi, M.

新型コロナウイルス(COVID-19)に関する研究のほとんどは欧米社会で行われてきた。本研究では,日本でのデータを収集し,脆弱性ストレス適応(Vulnerability-Stress-Adaptation:VSA)モデルや経済的要因,人間関係機能に関する関連研究を用いて,パートナーから地域社会,日本社会全体まで,様々な対人関係において報告された変化について検討した。

方法

日本の大手調査会社(GMO)を用いて,日本全国の回答者(20~70歳)を募集した。ワクチン接種の意思に関する情報も収集したため,全国一斉接種の前日にデータを収集した。データ収集時には,東京を含む10都道府県で緊急事態宣言が発令されており,日本では419,000名の患者と7,144名の死者が報告されていた。997名がアンケートに回答した[平均年齢45.63歳(標準偏差:SD 14.11),女性514名]。回答者の学歴,米国疾病予防管理センター(CDC)のリスク群(例:高血圧,糖尿病)かどうか,COVID-19と正式に診断されたことがあるか,普段所属している場所でそのように診断された人がいるか,経済状況(1. 悪い~4. 非常に良い)を評価した。感染拡大以降の経済的変化を評価するために,回答者はCOVID-19危機が原因で失業したかどうか,家族の収入が減少したかどうかを回答した。過去の心的外傷経験を測定するために,日本での七つの大きな出来事(2011年の東日本大震災など)が個人生活に与えた影響について調査した。不安を評価するために,回答者は過去2週間における不安症状について回答した。人間関係の変化については,夫婦関係(情熱,親密さ,パートナーへの献身),近隣関係(近隣への帰属感,近隣が助けになるという確信,地域社会への信頼),日本全体との関係(日本人への信頼,日本人が助けになるという確信,日本人全般に対する変化)の変化を評価した。

結果

GAD-7のカットオフ値10以上(中等度不安)または15以上(高度不安)を用いた場合,14.3%が中等度不安の基準を満たし,3.7%が高度不安の基準を満たした。平均不安評点は,男性よりも女性で高く[4.42 vs 3.57,t (995)=2.90,p=0.004],若い回答者で高かった(r (997)=-0.20,p<0.001)。

COVID-19の発生前後における人間関係の変化の認識について,「変化なし」の中間点に対する1標本のt検定を用いて平均点を検討した。夫婦の平均評点の変化(M=3.05,SD 0.44)は有意な改善を示したが(1標本のt検定t=2.87,p=0.004,Cohenのd=0.12),近隣との関係(M=2.95,t=-5.03,p=0.001,d=-0.16)と日本全体との関係(M=2.92,t=-7.58,p=0.001,d=-0.24)は低下していることが示された。この低下は変化の頻度にも表れており,それぞれの関係性において,80%以上の回答者が「変化なし」と答えた一方で,100名以上の回答者が,日本国民全体との信頼関係や一般的な関係性が低下していると回答した(それぞれ11%及び12%)。

高齢者,家族と話す時間が少ない人,経済状況が全般的に悪い人は夫婦関係の改善を報告する傾向が弱かった(表)。不安の軽減は,地域社会との関係,日本社会との関係の改善と有意に関連していた。

結論

人間関係の変化が報告された場合,夫婦関係の改善は,良好な経済的資源,話をする時間,若年齢と関連していたが,不安はより広い社会との関係の減少と関連していた。今後,パンデミックが世界的に他者との関係に影響を与え続ける中,こうした因子が時間経過と共に人間関係に及ぼす影響について検討することができるだろう。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(グナリディス 愛)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。