【テーマ:COVID-19②】
COVID-19パンデミック時の精神保健と心理的レジリエンス:日本,マレーシア,中国,米国の異文化間比較

J AFFECT DISORD, 311, 500-507, 2022 Mental Health and Psychological Resilience during the COVID-19 Pandemic: A Cross-Cultural Comparison of Japan, Malaysia, China, and the U.S. Sugawara, D., Chishima, Y., Kubo, T., et al.

背景

新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックからの回復は世界的な課題であるが,心理的レジリエンスを含む心理的特性には文化的な違いがあり,それが個人のパンデミック体験に影響を与えていると思われる。本研究では,文化の多様性とCOVID-19パンデミックへの対応の違いという観点から,レジリエンス因子の量的な違いと効果を日本,マレーシア,中国,米国で検討した。

方法

本研究では,レジリエンス因子と精神保健に関する国際的な調査を含むREsilience to COVid-19 in Each Region(RE-COVER)プロジェクトのデータを使用した。更に,日本人322名,マレーシア人423名,中国人505名,米国人333名に対して同時期の国際調査を実施した。回答者総数は1,583名であった。調査は2020年10月14日~11月2日に実施し,データ収集には,クラウドソーシングプラットフォーム(日本,米国),ウェブアンケート会社(マレーシア,中国)を利用した。

オンライン調査による4ヶ国のデータセットを使用し,回答者の年齢,性別,配偶者の有無,子どもの数,職業に関する人口統計学的情報を入手した。自粛実践の変化,収入の変化,主観的な社会的地位,対人関係の流動性についても調査した。

精神的苦痛についてはうつ病不安ストレス尺度21(Depression Anxiety Stress Scale-21:DASS-21),COVID-19に対する恐怖については新型コロナウイルス恐怖尺度(Fear of COVID-19 Scale:FCV),自己回復力についてはエゴ・レジリエンス尺度(Ego Risiliency Scale),統御感(sense of control)については統御感尺度(Sense of Control Scale),グリット(粘り強さ)についてはグリット尺度(Grit Scale-short),自分への思いやりについてはセルフ・コンパッション尺度(Self-Compassion Scale)をそれぞれ用いて評価した。

結果

COVID-19に対する恐怖は精神的苦痛と中程度の正の相関を示し(r=0.50,p<0.01),統御感(r=-0.53,p<0.01),グリット(r=-0.31,p<0.01),自分への思いやり(r=-0.39,p<0.01)は精神的苦痛と負の相関を示した。COVID-19に対する恐怖は,統御感(r=-0.32,p<0.01),グリット(r=-0.11,p<0.01),自分への思いやり(r=-0.18,p<0.01)と有意な負の相関を示したが,自己回復力とは相関を示さなかった(r=-0.00,有意差なし)。

統御感は,データセット全体(β=-0.36,p<0.001),日本(β=-0.37,p<0.01),マレーシア(β=-0.46,p<0.01),中国(β=-0.34,p<0.01),米国(β=-0.37,p<0.01)において,精神的苦痛と有意な負の関連を示した。自己回復力は,データセット全体(β=0.14,p<0.01),マレーシア(β=0.13,p<0.01),中国(β=0.08,p<0.05)において,精神的苦痛と有意に正の相関を示した。自分への思いやりは,データセット全体(β=-0.20,p<0.01),日本(β=-0.20,p<0.01),中国(β=-0.27,p<0.01),米国(β=-0.22,p<0.01)において,精神的苦痛と有意に負の相関を示した。統御感が低い場合,統御感が高い場合よりも,COVID-19に対する恐怖は精神的苦痛とより強い正の相関があることが示された(p<0.01)。自己回復力が高い群は自己回復力が低い群に比べ,COVID-19への恐怖が増加した時,より高い精神的苦痛スコアを示すことが示された(p<0.01)。

結論

統御感と自分への思いやりは,COVID-19パンデミック時の精神保健の悪化を防ぐのに役立つ可能性がある。特に統御感は,文化圏を超えて一貫して精神保健と関連している。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(グナリディス 愛)

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