【テーマ:COVID-19③】
1,753名のフランス語話者における,COVID-19によるロックダウンがもたらしたうつ病と不安への影響についての生物心理社会的研究

L'ENCEPHALE, 48, 118-124, 2022 Bio-Psychosocial Study on the Impact of the COVID-19 Lockdown on Depression and Anxiety in a Sample of 1753 French-Speaking Subjects. Gouvernet, B., Bonierbale, M.

背景と目的

ロックダウンは,気分障害,不安症,睡眠障害それぞれの有病率を高めることが報告されている。また,人口統計学的変数によってロックダウンの影響に対する脆弱性因子の違いが見られることも報告されている。フランスでは,新型コロナウイルス(COVID-19)の流行のため,はじめに2020年3月17日~5月11日,次に同年10月30日~12月1日にロックダウンが実施された。

そこで,本研究は,Bruchon-Schweitzerの健康心理学モデルを基礎としてメンタルヘルスに対するロックダウンの影響を調査するため,生物心理社会的アプローチを用いた研究を行った。本研究の土台となる仮説とは,ロックダウンが不安や抑うつに与える影響は,①社会人口統計学的特徴,②ロックダウン状況(居住環境,同居者の有無),③心理社会学的履歴(愛着スタイル)に依存しているというものである。

方法

本研究は,2020年4月27日~5月11日に「性自認とロックダウン」という名目で,オンライン上で実施された。参加者はソーシャルメディアを通じて募集し,無報酬で,匿名化された。

社会人口統計学的データは質問票によって収集した。参加者の性的指向は,回答内容から異性愛者,同性愛者,両性愛者のいずれかを推論した。不安症状は,General Anxiety Disorder Scale(GAD7)を用いて評価し,4段階に分類した(GAD<5:不安症なし,GAD<10:軽度の不安,GAD<15:中程度の不安,GAD≧15:重度の不安)。うつ病は,Major Depression Inventory(MDI)を用いて評価し,4段階に分類した(MDI<20:うつ病症状なし,MDI≦25:軽度のうつ病,25<MDI<31:中程度のうつ病,MDI≧31:重度のうつ病)。パートナーへの愛着は,Relationship structure questionnaire of experiences in close relationships₋revised(RSQ)を用いて評価した(α≧0.70)。回避と不安の次元に関して得られた評点によって,対象をBartholomewとHorowitzの4分類に従って分類した。

不安症状またはうつ病症状を反応変数として,順序回帰分析を実施した。

結果

参加者は比較的若く,女性が3分の2,ロックダウン中に3分の2がパートナーと同居していた。ほとんどの参加者が中程度~高度の人口密集地に居住していた。中程度~重度の不安症状を持つ参加者は18.4%,重度の抑うつ症状を持つ参加者は23.5%であった。愛着スタイルは,安定型と恐怖型がそれぞれ約3割,不安定型と拒絶型はそれぞれ約2割であった。

不安症状に対する脆弱性は,女性[調整オッズ比(AOR)=2.038,95%信頼区間(CI):1.647-2.530]及び就労していない参加者(無職または学生)において高かった。不安症状の脆弱性は性的指向と関連しており,特に両性愛者で顕著であった(AOR=1.962,95%CI:1.544-2.490)。経済的に脆弱な参加者では不安症状のリスクが高く,非就労者におけるAORは1.791(95%CI:1.147-2.790)であった。愛着スタイルでは,安定型と比較して,不安型と恐怖型のスタイルを持つ参加者に,不安症状の増加する傾向が見られた[不安型:AOR=1.949(95%CI:1.498-2.540),恐怖型:AOR=2.514(95%CI:1.985-3.190)]。

うつ病症状は,特に女性で大きな脆弱性が見出された(AOR=1.622,95%CI:1.274-2.072)。異性愛者に比べて,同性愛者(AOR=1.757,95%CI:1.039-2.906)と両性愛者(AOR=1.799,95%CI:1.394-2.317)はうつ病になりやすかった。不安症状と同様に,非就労者でうつ病のリスクが高かった(AOR=2.581,95%CI:1.633-4.057)。愛着スタイルでは,安定型と比較して不安定型と恐怖型のスタイルには,うつ病に対する大きい脆弱性が見出された[不安型:AOR=1.623,95%CI:1.207-2.181,恐怖型:AOR=2.521(95%CI:1.938-3.289)]。

結論

メンタルヘルスへの影響は,誰にとっても同じではない。本研究の結果は,これまでとは異なった観点と生物心理社会的アプローチの採用によって,ロックダウンの影響を理論的に説明し,各個人の特殊性に合ったケアを提供する必要性を支持する。パートナーに対する愛着スタイルを考慮することは,ロックダウン経験を理解する上で有用である。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(舘又 祐治)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。