全国規模の統合失調症患者コホートにおける再燃予防のための特定の抗精神病薬の至適投与量

SCHIZOPHR BULL, 48, 774-784, 2022 Optimal Doses of Specific Antipsychotics for Relapse Prevention in a Nationwide Cohort of Patients with Schizophrenia. Taipale, H., Tanskanen, A., Luykx, J. J., et al.

はじめに

抗精神病薬の至適投与量については複数のレビューやメタ解析が行われており,これまでの研究結果から,標準量[1日投与量(Defined Daily dose:DDD)/日 相当]より多い量を投与しても更なる効果は期待できないが,標準量未満の投与は再燃リスク上昇に繋がるとされている。抗精神病薬の種類や剤形によって最適な用量が異なる可能性があるが,それらを検討した研究はない。そこで本研究では,フィンランドの全統合失調症患者を含む前方視的データを用いて,15種類の抗精神病薬の用量区分ごとに,再入院によって示される重症再燃リスクについて検討した。

方法

本コホートは全国的な病院退院記録から抽出され,フィンランドで1972~2014年に統合失調症により入院し,1996年1月1日時点で生存していた61,889名全てが含まれた。再燃は,F20~F29の主診断に基づく再入院と定義した。抗精神病薬のエピソードは,ある用量(DDDs/日)が一貫して使用されていた期間に細分化され,用量の分類は.<0.6,0.6~<0.9,0.9~<1.1,1.1~<1.4,1.4~<1.6,≧1.6 DDDs/日とした。

一般的な15種類の抗精神病薬単剤について,薬剤の種類と用量区分のレベルで分析した。特定の用量区分を使用した期間と,抗精神病薬を一切使用しなかった期間を比較し,再燃のリスクを検討した。

結果

追跡開始時の平均年齢は46.7歳[標準偏差(SD)16.0],統合失調症の初診から平均8.8年(SD 9.0),50.3%(31,104名)が男性であった。使用された抗精神病薬は経口オランザピンが最も多く(16,131名),次いでリスペリドン(13,083名),クロザピン(11,828名),クエチアピン(10,838名)であった。

15種類の抗精神病薬単剤治療のうち13種類はU字型またはJ字型の用量反応曲線を示し,13種類中9種類は標準用量0.9~1.1 DDDs/日で[レボメプロマジン経口剤,ハロペリドール経口剤及び持効性注射剤(LAI),zuclopenthixol経口剤,クロザピン経口剤,オランザピン経口剤,クエチアピン経口剤,リスペリドンLAI及びアリピプラゾール経口剤],また13種類中4種類は0.6~<0.9DDDs/日で再燃の調整ハザード比(aHR)が最も低くなった(ペルフェナジンLAIchlorprothixenezuclopenthixol LAI,経口リスペリドン)(図)。aHRが最も低い用量の例外は,経口ペルフェナジン[aHR=0.72,95%信頼区間(CI):0.68-0.76,<0.6DDDs/日]とオランザピンLAI(aHR=0.17,95%CI:0.11-0.25,1.4~<1.6 DDDs/日)であり,後者はあらゆる抗精神病薬の中で最もaHRが低かった。高用量(≧1.6DDDs/日)の経口ペルフェナジン(aHR=3.35,95%CI:2.37-4.73),リスペリドンLAI(aHR1.41,95%CI:1.25-1.59),経口リスペリドン(aHR=1.34,95%CI:1.22-1.47)は,抗精神病薬の非使用に比べて再入院リスクが高かった。経口ペルフェナジンに関しては,標準用量(0.9~<1.1DDDs/日)でも,再燃リスクが高かった(aHR=1.32,95%CI:1.09-1.61)。

結論

抗精神病薬の用量反応曲線はJ字型またはU字型を示し,特に低用量<0.6DDDs/日または≧1.6DDDs/日以上で再燃リスクが上昇することが示された。例外はペルフェナジンとリスペリドンで,WHOによる現在の標準用量は,再燃予防のための最適な維持療法としてはペルフェナジンでは明確に多く,リスペリドンではやや多いことが示された。オランザピンLAIの比較的高用量での投与は,他の抗精神病薬のどの用量よりも,再燃予防に高い効果を示した。

*日本国内では未発売

図.単剤療法で最も広く使われている抗精神病薬を,抗精神病薬を使用していない対象群と比較した調整ハザード比
図.単剤療法で最も広く使われている抗精神病薬を,抗精神病薬を使用していない対象群と比較した調整ハザード比(つつぎ)

257号(No.5)2022年12月19日公開

(野村 信行)

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