2001年から2017年の台湾の全国コホートにおける初回入院統合失調症患者に対する抗精神病薬による再入院予防効果の比較

SCHIZOPHR BULL, 48, 785-794, 2022 Comparative Effectiveness of Antipsychotics in Preventing Readmission for First-Admission Schizophrenia Patients in National Cohorts From 2001 to 2017 in Taiwan. Lin, Y.-H., Wu, C.-S., Liu, C.-C., et al.

はじめに

統合失調症治療の効果の評価は重要であるが,研究方法によりそれぞれに利点と弱点があり,結果に影響する。その一例として,経口抗精神病薬と比較した持効性注射剤(LAI)抗精神病薬の再燃予防における効果について相反する報告がされていることが挙げられる。また,抗精神病薬の処方は国によって異なるため,早期統合失調症患者における抗精神病薬の実際の効果について更なる研究が必要である。

本研究は,先行研究の結果の相違を補うため,台湾の全国コホートを用いて以下を調べることを目的とした。すなわち,①初回入院統合失調症患者の4年再入院リスクの経年変化を評価すること,②初回入院統合失調症患者における抗精神病薬の種類ごとの再入院リスクを被験者内解析により比較すること,③調査期間中の抗精神病薬の種類ごとの処方普及率の推移を比較すること,である。

方法

精神科入院患者の国民健康保険研究データベース(NHIRD)を使用して,統合失調症と診断された入院患者の後方視的住民ベースコホート研究を実施した。2001~2017年の間に精神科病棟に統合失調症の診断で初回入院した患者を動的発症コホートとして選択した。除外基準は初回入院時に15歳未満または64歳以上であった患者,性別不明の患者,初回入院時に死亡した患者とした。

主要転帰は,あらゆる精神病性障害による再入院とした。副次転帰は,治療成績の評価と副作用を含む全原因による再入院とした。

抗精神病薬治療を受けた人‐年をコホート全体でプールし,その中の再入院イベント数をカウントして,再入院の発生率を推定した。次に,生存分析を適用して,初回入院時から退院後4年までの再入院リスクを推定した。リスペリドンを参照治療として,層別被験者内拡張Coxモデルを適用し,抗精神病薬ごとの有効性を評価した。

結果

75,986名が本研究に含まれた。統合失調症の初回入院患者数は年々減少しており,4年再入院リスクは2001年の68.16%から2013年の64.35%へと微減していた。単剤療法は人‐年の4分の3以上を占め,リスペリドン(18.53%),スルピリド(8.19%),オランザピン(8.01%),クロザピン(7.19%),クエチアピン(6.31%)など経口抗精神病薬単剤療法の人‐年数が最も多くなっていた。

経口リスペリドンと比較して,精神病性障害による再入院リスクはLAI単剤療法で17~22%低下し,最もリスクが低かったのはハロペリドールLAI[調整ハザード比(aHR)=0.79,95%信頼区間(CI):0.72-0.86],次いでflupenthixol* LAI(aHR=0.82,95%CI:0.76-0.88)とリスペリドンLAI(aHR=0.83,95%CI:0.77-0.89)であった。パリペリドンLAIは経口リスペリドンとの比較では有意差がなかった。全原因による再入院の分析でも結果は同様であった。

抗精神病薬の処方率については,経口リスペリドンが2003年以降最も多く処方されている抗精神病薬であった,一方,個々のLAIの処方率は低いままであった(<10%)。退院からLAIの処方を受けるまでの期間は,平均1,031日(標準偏差1,265),中央値499日(25パーセンタイル=55日,75パーセンタイル=1,590日)であった。

結論

本研究では,患者の4年再入院リスクは比較的安定していた。最も処方されていた経口リスペリドンと比較すると,3種類のLAI(ハロペリドール,flupenthixol,リスペリドン)は再入院の調整リスクが15~20%低かった。再入院予防効果が高いにもかかわらず,LAIはまだ十分に使用されておらず,初回入院の統合失調症患者の再入院リスクを低減する一つの方法は,早い段階でLAIの適用を開始することであることが示された。

*日本国内では未発売

257号(No.5)2022年12月19日公開

(野村 信行)

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