クロザピンを開始した患者における以前の抗精神病薬の服薬アドヒアランスと将来の服薬アドヒアランスとの関連:実臨床での観察研究

BR J PSYCHIATRY, 220, 347-354, 2022 Association Between Previous and Future Antipsychotic Adherence in Patients Initiating Clozapine: Real-World Observational Study. Brodeur, S., Courteau, J., Vanasse, A., et al.

背景と目的

クロザピンは治療抵抗性統合失調症に有効な抗精神病薬であるが,十分に使用されていない。理由としては治療開始時に何度も血液検査を行う必要があることや,クロザピン投与開始前の抗精神病薬のアドヒアランス不良がクロザピンのアドヒアランス不良にも繋がる懸念があることが挙げられる。

本観察研究の目的は,クロザピン開始前の抗精神病薬に対する外来患者のアドヒアランス不良が,クロザピン開始後の抗精神病薬及びクロザピンに対するアドヒアランス不良の素因となるかどうかを調査することである。

方法

ケベック州の住民を対象とし,ケベック州悪性腫瘍保険組合(RAMQ)からデータを抽出した。ICD-9,ICD-10にて統合失調症と診断され2009~2016年の間にクロザピンを開始した3,228名を対象とした。処方箋が発行され薬剤が処方された日を指標日とした。

指標日前後のアドヒアランスを薬剤保有率(MPR)により測定した。MPRは抗精神病薬供給日数(調査期間中に外来患者向け薬局から患者が薬剤を受け取った分の日数)を外来日数(入院日数を除く)で割って得られたもので,良好なアドヒアランスを示す閾値として0.8を用いた。独立変数として患者を指標日の過去1年間におけるMPRに基づき5群に分類し,従属変数として,クロザピン投与開始後1年間における二つの変数(クロザピンを含む全ての抗精神病薬とクロザピンのみに対する良好な外来服薬アドヒアランス)を定義した。

多重ロジスティック回帰分析に加えて,クロザピン投与前後の抗精神病薬使用の軌跡を視覚化するために状態シークエンス分析を使用した。

結果

調査対象は3,228名で,指標日以前の1年間の外来での抗精神病薬アドヒアランスが最も高い群(1群)から最も低い群(5群)まで,5群を形成した。患者特性は,1群(MPRprior≧0.8)より不良群(MPRprior<0.8)の方が若年であった。

表は,過去のアドヒアランス不良群(2~5群)と良好群(1群)における,指標日以降のあらゆる抗精神病薬のアドヒアランス不良の調整オッズ比(aOR)を示したものである。MPRpriorが低いほど,1群と比較して指標日以降のあらゆる抗精神病薬のアドヒアランス不良リスクが高いことが示された(aOR:3.47-6.36)。しかし,クロザピン導入後は84.2%(4群)~97.1%(1群)の患者がアドヒアランス良好であった。つまり,導入前と導入後のアドヒアランスレベルは有意に相関していたが,それでもクロザピン導入後の抗精神病薬のMPRは5群全てでかなり良好であった。

表は更に,2~5群における指標日以降のクロザピンのアドヒアランス不良のaORを,1群と比較して示している。その結果,2~4群は1群と比較してクロザピンのアドヒアランス不良のリスクが高いことが示された(aOR:1.42-2.41)。

結論

クロザピン投与前の服薬アドヒアランス不良はクロザピン開始の障壁として広く認識されているが,観察研究の結果は適格患者への投与を支持するものであった。

表.過去の外来抗精神病薬アドヒアランスレベルと,クロザピン開始後のあらゆる抗精神病薬に対する外来アドヒアランス不良(従属変数1:MPR antipsychotic < 0.8)及びクロザピンに対する外来アドヒアランス不良(従属変数2:MPR clozapine<0.8)との関連:重回帰分析結果(1群が参照値)

257号(No.5)2022年12月19日公開

(内沼 虹衣菜)

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