精神病の初期段階における新規治療薬としてのカンナビジオール(CBD)

PSYCHOPHARMACOLOGY, 239, 1179-1190, 2022 Cannabidiol (CBD) as a Novel Treatment in the Early Phases of Psychosis. Chesney, E., Oliver, D., McGuire, P.

背景

精神病初期の薬剤介入は限られている。精神病ハイリスク症例(CHR)に対して認可された治療法はない。初回エピソードの精神病患者に対して,抗精神病薬はドパミンD2受容体を介して作用するが,必ずしも効果があるわけではなく,しばしば不快な副作用を引き起こす。

カンナビジオール(CBD)はカンナビス・サティバ植物に含まれる化合物で,抗精神病作用を持ちながら副作用が比較的少なく,δ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とは異なり中毒性はないとされている。本レビューでは,精神病の初期段階においてCBDが理想的な治療法となる可能性につき検討した。

精神病におけるCBDの作用機序

CBDはカンナビノイド(CB)1及びCB2受容体の負のアロステリックモジュレーターであり,内因性リガンドのエンドカンナビノイドに対する応答を制限する。また,CBDはCB1受容体の内在化を防いで,患者における低いCB1受容体密度を正常化することが示唆されている。エンドカンナビノイドの代謝を阻害することによっても作用しているかもしれない。また,NMDA受容体拮抗薬のMK-801を用いた動物研究では,CBDの抗精神病作用はセロトニン(5-HT)1A受容体拮抗薬によって遮断され,CB1及びCB2受容体拮抗薬では遮断されないことから,5-HT受容体もCBDの標的かもしれない。In vitro研究からは,CBDがドパミンD2受容体の部分作動薬として作用する可能性が報告されている。更に,CBDはチトクロームP450(CYP)酵素の強力な阻害剤であることから,抗精神病薬の血漿濃度を上昇させることで効果を変化させる可能性がある。

精神病性障害におけるCBDの有効性

現在までに精神病患者におけるCBDの臨床試験は3報しかない。Lewekeら(2012)は,CBD 800mgはamisulpride*単剤と同等の効果を発揮する可能性を示した。Boggsら(2018)は,CBD 600mgの補助治療はプラセボと精神病症状や認知機能に差がないことを報告した。McGuireら(2018)は,CBD 1,000 mgの補助治療は,プラセボと比べて精神病症状の重症度や臨床医の全般的印象の改善と関連すると報告した。ただしこれらの試験は,サンプル数が限られており(n=40~80),治療期間が比較的短く(4~6週間),慢性精神病の患者を対象としたものであり,初発の精神病患者においてCBDがどの程度有用であるかについてはまだ検証されていない。現在,精神病性障害におけるCBDの臨床試験として,七つの無作為化対照試験が進行中である。

精神病の初期段階におけるCBDの忍容性・受容性

CBDは副作用が比較的少なく忍容性が良好で,メタ解析ではCBDに起因する唯一の副作用は下痢であった。上記の3報の臨床試験のいずれにおいても,CBDとプラセボの間で副作用の発生率に有意な差はなかった。また,患者はしばしば市販のCBD製剤を使用しており,CBDの使用はスティグマと関連せず,アドヒアランスにプラスの影響を与えるかもしれない。

娯楽用大麻と市販のCBの潜在的な交絡

CHRと初回エピソード精神病患者では,現在あるいは過去の大麻(THC)の娯楽的な使用の割合が高い。持続的な大麻使用は精神病症状を悪化させ,再燃リスクを高め,悪い長期転帰と関連する。THCはCB1とCB2受容体の部分作動薬であり,アナンダミドと同様の活性を持っている。また,THCは急速に分解されず,中毒症状が3~4時間持続する。長期の大麻使用は,カンナビノイド受容体,アミドヒドロラーゼ(FAAH:アナンダミドやその他の関連リガンドを代謝する脂肪酸),エンドカンナビノイドの発現に影響を及ぼすことが示されている。また,CBDの投与が精神病患者の大麻の娯楽的使用を変化させる可能性もある。そのため,娯楽用の大麻使用は,CBDの臨床試験の結果と交絡する可能性がある。

結論

CBDは抗精神病薬による治療に反応しない患者や,副作用やスティグマの懸念から抗精神病薬の服薬に消極的な患者にとって特に有用であると考えられる。今後,精神病の初期段階におけるCBDの有用性を確認するために,CHRや初回エピソード患者を対象とした大規模な臨床試験を実施すると共に,神経画像や末梢血の測定での評価により,CBDの作用の分子メカニズムを調査することが望まれる。

*日本国内では未発売

257号(No.5)2022年12月19日公開

(谷 英明)

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