小児期の心的外傷と重度精神障害の活動期または寛解期における社会機能の低さとの関連

SCHIZOPHR RES, 243, 241-246, 2022 Childhood Trauma is Associated With Poorer Social Functioning in Severe Mental Disorders both during an Active Illness Phase and in Remission. Hjelseng, I. V., Vaskinn, A., Ueland, T., et al.

背景

社会機能の障害は統合失調症スペクトラム障害(SZS)と双極性スペクトラム障害(BDS)の中核症状である。小児期の心的外傷は,成人の精神病患者における社会機能の低さの予測因子となり得ることが示唆されているが,累積的な心的外傷体験,または現存する精神病がこの関係に果たす役割を調査する研究は不足している。

本研究は,SZS・BDSの患者について,小児期の心的外傷体験が成人期の社会機能と関連しているかどうかを調査することを目的とし,①小児期の心的外傷体験は診断とは無関係に社会機能の障害と関連するかどうか,②小児期の心的外傷体験の数とSZS・BDSの社会機能障害との間に累積的な関連があるかどうかについて検討した。また,活動期の潜在的交絡因子を検証するために,寛解期の患者の追跡評価を行った。

方法

SZS群,BDS群,健常者(HC)群における小児期の心的外傷と成人期の社会機能との関連について,1,039名の大規模サンプル(SZS 348名,BDS 262名,HC 429名)を対象として調査した。2007~2017年に,オスローの4ヶ所の主要病院で対象を募集した。小児期の心的外傷と社会機能の水準は小児期の心的外傷質問票(Childhood Trauma Questionnaire:CTQ)と社会機能評価尺度(Social Functioning Scale:SFS)により評価した。診断は精神疾患の診断・統計マニュアル-Ⅳ(DSM-Ⅳ)に準拠した精神科診断面接(SCID)により行った。

結果

患者は社会機能が低く(F=819.18,p<0.001,Cohen's d=0.44),HC群よりも小児期の心的外傷体験が多くあることを報告した(χ2=289.0,p<0.001)。

一つ以上の中等度~重度の心的外傷を伴う患者は,小児期の心的外傷のない患者よりも社会機能が低かった(F=8.16,p=0.004,Cohen's d=0.17)。軽度の心的外傷を伴う患者の社会機能は小児期の心的外傷のない患者と比較して違いはなかった(p>0.1)。患者のうち,小児期の心的外傷体験が多いほど社会機能が低いという累積的な関連が見られた(F=2.65,p=0.02,Cohen's d=0.20,図)。HC群では,一つ以上の中等度~重度の心的外傷や累積的な心的外傷を伴うことと社会機能との有意な関連は見られなかった。

寛解期の患者の分析では,小児期の心的外傷歴を持つことと社会機能の低さとの関係が確認された(F=4.28,p=0.04,Cohen's d=0.20)。

結論

本研究は,SZS及びBDSの患者において,小児期の心的外傷体験の累積と社会機能の障害との関連を示したが,HCにおいてはこの関連は有意でなかった。また,小児期の心的外傷歴は,患者の病相が活動期であるか寛解期であるかにかかわらず,社会機能障害と関連することがわかった。これらの結果から,早期神経発達因子が小児期の心的外傷体験と相互作用し,重度の精神障害を発症した人の社会機能の低下と関連することが示唆された。

図.患者における心的外傷の用量反応と社会機能の低さ

257号(No.5)2022年12月19日公開

(冨山 蒼太)

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