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精神病性障害患者における一般認知機能の経過
JAMA PSYCHIATRY, 79, 659-666, 2022 The Course of General Cognitive Ability in Individuals With Psychotic Disorders. Jonas, K., Lian, W., Callahan, J., et al.
背景
統合失調症患者の社会生活機能を低下させる重大な要因として認知機能障害が知られているが,長期的なデータが乏しく,認知機能障害の具体的な経過はわかっていない。現時点では,統合失調症では脳の発達の障害により認知機能障害が生じ,続いて精神疾患を発症し,発症後の認知機能は固定化されるという神経発達障害モデルや,統合失調症は進行性の増悪の結果であり,認知機能は低下し続けるとする神経変性疾患モデルが提唱されている。統合失調症以外の精神病性障害でも認知機能障害は認められるが,同様に縦断的な経過は不明である。
目的
本研究の目的は,精神病性障害患者における小学生時代から老年期までの認知機能の変化を追跡することである。
方法
精神病性障害で初回入院した患者についての縦断的コホート研究であるSuffolk County Mental Health Projectのデータを用いた。参加者はニューヨーク州サフォーク郡の全ての精神科入院施設12ヶ所から募集した。
入院前の認知機能は学校記録を用いて評価し,発症後の認知機能は6ヶ月,24ヶ月,20年後,25年後の追跡面接で評価した。データは1989年9月~2019年10月の間に収集し,2020年1月~2021年10月の間に分析を行った。
結果
一般認知機能の推定値を二つ以上得られた対象者428名(統合失調症212名,その他の精神病性障害216名)のうち,254名が男性(59.6%)で,精神疾患発症時の平均年齢(標準偏差)は27(9)歳であった。
患者の認知機能の変化には,正常期,減退期,増悪期と言える三つの段階が観察され,それらの段階は年齢ではなく発症からの時間に関係があるようであった。精神疾患発症前の,幼少期から14歳頃までの正常期では認知機能は安定していた。発症の14年前から減退期に突入し,統合失調症患者では1年間に0.35点の知能指数(Intelligence Quotient:IQ)低下[95%信頼区間(CI):0.29-0.42,p<0.001]が始まった。同時期の他の精神病性障害患者も1年間で0.15点のIQ低下(95%CI:0.08-0.22,p<0.001)が認められたが,統合失調症患者の方が著しく早い低下を示したと言えた。発症後22年で増悪期を迎え,認知機能の低下は1年間に0.59点の知能指数低下(95%CI:0.25-0.94,p<0.001)と加速を示した。この期間の認知機能の推移は診断による差が認められなかった。
観察期間を通して,統合失調症患者のIQには16点以上の低下が認められ,他の精神病性障害に罹患した患者では9点のIQ低下が認められた。
考察
本コホート研究において,統合失調症患者における認知機能の低下は平均で13歳から認められ,若年での神経発達障害が示唆されており,この点では神経発達障害モデルに一致した。一方で,発症後20年以上も経過してからの認知機能低下の加速は神経変性疾患モデルを示唆すると言えた。
認知機能の低下が発症より14年も早く始まっていることから,一次予防の時期は従来の認識よりも早くなされるべきかもしれない。また二次予防の時期として,発症後20~30年頃が示唆された。
COI
利益相反:Dr Jonas,Dr Carlson,Dr Kotovは,本研究の実施中にNational Institute of Mental Healthから助成金を受けている。その他の情報開示は報告されていない。
資金提供/助成:本研究は,National Institutes of Healthから資金提供を受けた。Dr BrometにはMH44801,Dr KotovにはMH094398の助成金が出ている。
資金提供者の役割:資金提供者は,研究のデザインと実施,データの収集・管理・分析・解釈,原稿の準備・レビュー・承認,発表のための原稿提出の決定において,いかなる役割も担っていない。
257号(No.5)2022年12月19日公開
(下村 雄太郎)
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