前駆期:思春期後期から成人期発症の躁病/精神病初回エピソードにおける前駆症状,危険因子,脆弱性マーカーの違い

ACTA PSYCHIATR SCAND, 146, 36-50, 2022 Prodromal Phase: Differences in Prodromal Symptoms, Risk Factors and Markers of Vulnerability in First Episode Mania versus First Episode Psychosis With Onset in Late Adolescence or Adulthood. Verdolini, N., Borràs, R., Sparacino, G., et al.

背景

近年,個々の疾患を早期に鑑別し,早期介入に繋げることが重要視されている。気分障害と統合失調症の鑑別についても同様であり,本研究は思春期後期から成人期発症の,前駆期における初回躁病エピソード(FEM)と初回精神病エピソード(FEP)の症候学的及び時間的な違いを明らかにすることを目的とする。更に,両者の危険因子と脆弱性のマーカーを明らかにすることも目的とする。

方法

18~45歳で,組み入れ時の過去4年間にFEMもしくはFEPを経験した患者を対象とした。本研究はスペインで実施され,診断にはDSM-5を用いた。前駆期の評価にはBipolar Prodrome Symptom Scale-Retrospective(BPSS-R)を用いた。

カイ二乗検定で各群間の前駆症状と期間,危険因子,脆弱性のマーカーの比較を行った。

結果

FEM群72名,FEP群36名の計108名の解析を行った。

前駆期の症状の数は,両群間で差はなかった。FEPの前駆期の特徴として,社会的孤立が認められた(p=0.010)。一方,FEMの前駆期にはエネルギーの上昇及び目標に向かった活動が認められた(p<0.001)。

FEPはFEMに比較し,発症と進行が緩徐な傾向があった(OR=3.35)。BPSS-Rの前駆期の平均持続期間はFEP群が8.8ヶ月,FEM群が3.15ヶ月であった(p<0.001)。急性発症と緩徐な発症を比較した場合,身体的な衰えは緩徐な発症と,一方,エネルギーの上昇及び目標に向かった活動は急性発症と関連していた。

危険因子については,精神疾患の家族歴は両群で違いはなかったが,産科的合併症(OR=2.594)と幼少期の読み書きの遅れ(OR=12.6)はFEP群で多く認められた。両群とも,前駆期には頻繁にストレスを経験しており,また心的外傷体験や幼少期の虐待経験が多く認められた。

脆弱性のマーカーについては,FEM群の60%,FEP群の64.7%に,20歳前後でのメンタルヘルスサービスの初回受診歴があった。発病前の不適応については,FEP群の方がFEM群よりも不良であった。両群間で有意差はなかったが,大麻とアルコールの使用がFEM群で59.4%と60.9%,FEP群で48.6%と55.6%と,いずれも高い確率で認められた。FEP群との比較において,FEM群では明確な危険因子や脆弱性のマーカーは見出せなかった。

結論

FEPの前駆期には社会的孤立,FEMの前駆期にはエネルギーの上昇と目的に向かった活動が認められた。前駆期の持続時間はFEPの方が長いが,FEMの前駆期も約3ヶ月と,早期介入を受けるために十分な持続期間があることが明らかになった。FEPの危険因子としては,産科的合併症及び幼少期の読み書きの遅れ,脆弱性マーカーとしては発症前の不適応が認められた。これらの発見が早期鑑別と早期介入の一助となるであろう。

一方,本研究の限界として,FEPのサンプル数が少ないこと,前駆期の評価を後方視的に行っているため想起バイアスが生じる可能性があること,対照群がないことが挙げられる。

COI

筆頭著者はAngelini, Janssen, Lundbeck, 大塚の各社から経済的支援を受けている。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(真鍋 淳)

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