初回エピソード精神病における炎症:陰性症状の出現へ影響する炎症性生物学的マーカーについての系統的レビューとメタ解析

ACTA PSYCHIATR SCAND, 146, 6-20, 2022 Inflammation in First-Episode Psychosis: The Contribution of Inflammatory Biomarkers to the Emergence of Negative Symptoms, A Systematic Review and Meta-Analysis. Dunleavy, C., Elsworthy, R. J., Upthegrove, R., et al.

はじめに

初回エピソード精神病の約26%の患者に陰性症状が出現すると言われている。陰性症状の発現には炎症性生物学的マーカーの変化が媒介するという証拠が過去の研究から明らかになっている。しかし,陰性症状には,疾患の過程自体から生じる原発性の陰性症状のみではなく,抗精神病薬の副作用などから生じる副次性の陰性症状も含まれる。更に,抗精神病薬は炎症性生物学的マーカーの値を変動させることも知られている。

本研究の目的は,炎症性生物学的マーカーと陰性症状の重症度との関係を包括的に調べることであり,薬剤の影響を省くため,薬剤未投与の初回エピソード精神病についての研究を対象とし,それらの系統的レビューとメタ解析を行った。

方法

MEDLINE,EMBASE,PsycInfoを通して過去の研究データベースを検索した。1982~2021年に発表された研究で,抗精神病薬が未使用であり,発症から5年以内の初回エピソード精神病を扱っており,サイトカインと陰性症状の評価がなされていて,健常者の対照群が設けられていることを組み入れ基準とした。16報の研究がこの基準を満たした。更にその中で,プール解析ランダム効果モデルのメタ解析へ投入できる十分なデータを持つ10報の研究を解析に使用し,各サイトカインに関しての標準化平均差(SMD)を求めた。

結果

651名の初回エピソード精神病群と521名の健常群のサイトカインのデータを比較した。24種類の異なるサイトカインのうち,2報以上の研究で測定されていた10種類のサイトカインを比較対象の炎症性生物学的マーカーとした。初回エピソード精神病群では次の4種類の炎症誘発性サイトカインが上昇していた。すなわち,インターフェロン(IFN)-γ(SMD=1.22,p=0.03),インターロイキン(IL)-6(SMD=1.38,p=0.001),IL-12(SMD=3.43,p<0.0001)の三つが大きなエフェクトサイズを,IL-17(SMD=0.72)が中等度のエフェクトサイズを伴い(p<0.05),初回エピソード精神病群で上昇していた。一方で,抗炎症性サイトカインであるIL-4とIL-10と他の炎症誘発性サイトカイン(TNF-α,IL-1β,IL-2,IL-8)では有意な群間差は認められなかった。

データ数が少ないため,各サイトカインと陰性症状との関係についてのメタ解析を行うことはできなかった。しかし,個々の研究からは,炎症誘発性サイトカイン(TNF-α,IL-1β,IL-2,IL-6)と陰性症状の間で中等度の正の相関が認められたとする報告が散見された(いずれも3~5報の研究のうち1報で相関が認められたというレベル)。一方で,抗炎症性サイトカインに関しては,IL-10において4報の研究のうち2報で陰性症状との負の相関(強い相関と弱い相関,r=-0.65とr=-0.195),IL-4では3報の研究のうち1報で強い正の相関(r=0.67)が認められた。

考察

本研究の問題点としては,各研究間でのサイトカイン値の測定法が異なること,喫煙及び食事の状況やストレスへの曝露といったサイトカインに変化を与える因子の情報がないこと,サイトカインと陰性症状の変化を追いながらそれらの因果関係を導く縦断的な手法を用いていないことが挙げられる。これらの問題はあるものの,本研究は炎症と原発性の陰性症状との関連を示唆する包括的な解析結果である。初回エピソード精神病においてサイトカインの測定を行うことが,陰性症状を呈する患者か否かを階層化することに役立つかもしれない。更に,抗炎症薬治療を行うことで陰性症状を改善できるかもしれない。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(船山 道隆)

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