統合失調症患者の精神科入院と,抗精神病薬により発現が変化する遺伝子に基づくポリジェニックリスクスコアとの関連

ACTA PSYCHIATR SCAND, 146, 139-150, 2022 Association Between Psychiatric Hospitalizations of Patients With Schizophrenia and Polygenic Risk Scores Based on Genes With Altered Expression by Antipsychotics. Facal, F., Arrojo, M., Paz, E., et al.

背景

ゲノムワイド関連解析で同定されたリスクアレルをそのエフェクトサイズで重み付けし加算したポリジェニックスコア(PRS)を用いた研究では,統合失調症のPRSが精神科入院の回数と相関することが報告されている。また,抗精神病薬投与後に多くの遺伝子の発現が変化することも報告されている。

本研究では,抗精神病薬によって発現が変化する遺伝子の脳内発現に影響を及ぼす遺伝子多型のサブセットに基づいた統合失調症ポリジェニックリスクスコア(exprAP PRS)が,統合失調症患者の精神科再入院歴や入院回数/期間と関連するかどうかを検証することを目的とした。

方法

統合失調症患者427名(年齢の中央値:58歳,男性:71%)を対象とした。電子カルテから,生年月日,死亡日,性別,中・長期精神科病棟への入院歴,または中・長期精神科病棟への入院歴がない場合には急性期精神科病棟への入院回数等の情報を抽出した。主要転帰は精神科病棟への再入院歴の有無と,入院歴(入院回数と入院期間)の二つとした。

試料の遺伝子型判定はIllumina Infinium PsychArray BeadChipを用いて実施し,抗精神病薬によって発現が変化する遺伝子をComparative Toxigenomics Databaseから抽出した。脳内遺伝子発現に関連するeQTL(発現量的形質遺伝子座)データはGTExポータルから入手し,抗精神病薬によって発現が変化する遺伝子のeQTL(exprAP eQTL)のみを対象とした。

PRSは,PGC-3 SCZ(Psychiatric Genomics Consortium Wave 3 Schizophrenia)データをdiscoveryサンプルとして使用して,clumping and thresholding法(p<0.05)を用いて推定した(SCZ PRS)。ExprAPのPRS(exprAP PRS)と,更に,統合失調症リスクアレルが抗精神病薬と同じ方向(unrestored PRS:統合失調症リスクアレルが遺伝子発現を増加させ,かつ抗精神病薬の効果もその遺伝子発現を増加させる)または逆の方向(restored PRS:統合失調症リスクアレルが遺伝子発現を増加させるが,抗精神病薬の効果はその遺伝子発現を減少させる)で遺伝子発現に影響を及ぼすexprAP多型のサブセットに基づいて,それぞれのPRSを推定した。

ロジスティック回帰分析を用いて,前述の四つのPRS(SCZ PRS,exprAP PRS,unrestored PRS,restored PRS)と再入院歴及び入院歴との関連を検定した。

Webgestalt(機能的濃縮解析のためのウェブツール)は遺伝子オントロジーのエンリッチメント分析に使用した。

結果

427名のうち,精神科病棟への入院歴がない者が25名,中期滞在型病棟には47名,長期滞在型病棟には174名が入院し,残りの181名は急性期病棟に入院していた(入院回数:中央値で3回)。

四つのPRSの中で,exprAP PRSのみが再入院歴[オッズ比(OR)=1.48,95%信頼区間(CI):1.10-1.97,p=0.0085]と有意な関連があった。また,exprAP PRSは入院歴(OR=1.30,95%CI:1.07-1.57,p=0.0081)とも有意な関連があった。SCZ PRS(OR=1.22,95%CI:1.01-1.48,p=0.036)とunrestored PRS(OR=1.26,95%CI:1.04-1.53,p=0.019)も入院歴との関連があった。

いくつかの遺伝子オントロジー生物学的プロセスは,exprAP PRSに寄与する遺伝子のサブセットと関連していた。その中で,最も統計学的に有意な関連はサイトカイン産生に関連するものであった。

結論

抗精神病薬によって発現が変化する遺伝子に基づくPRSがSCZ PRSよりも精神科再入院の予測因子として優れている可能性,及び,抗精神病薬の作用が主に免疫に関わる遺伝子の脳内遺伝子発現に関連している可能性が示唆された。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(吉田 和生)

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