薬剤‐遺伝子相互作用に関する遺伝薬理学的検査がうつ病治療における薬剤選択や症状寛解に及ぼす効果:
PRIME Care無作為化臨床試験

JAMA, 328, 151-161, 2022 Effect of Pharmacogenomic Testing for Drug-Gene Interactions on Medication Selection and Remission of Symptoms in Major Depressive Disorder: The PRIME Care Randomized Clinical Trial. Oslin, D. W., Lynch, K. G., Shih, M.-C., et al.

はじめに

うつ病に対する初回薬剤療法の反応率は約30%と低いことから,遺伝薬理学はうつ病治療において薬剤選択を個別化する方法として注目されている。本研究の目的は,遺伝薬理学的検査を利用することが,①薬剤‐遺伝子相互作用が少ない薬剤選択に繋がるかどうか,②寛解率上昇に繋がるかどうか,を調査することである。

対象

退役軍人医療センターで治療を受けており,大うつ病と診断されていて,単剤治療を開始する予定である18~80歳の患者を対象とした。除外基準は,物質使用障害,双極性障害,精神病性障害,情緒不安定性あるいは反社会性パーソナリティ障害,抗精神病薬・メサドン・ブプレノルフィン・ナルトレキソンの使用,補強療法の使用とした。

方法

22ヶ所の退役軍人医療センターで2017年7月~2021年2月に患者を組み入れた。薬力学と関連する四つの遺伝子,薬物動態と関連する八つの遺伝子を調査し,その結果を利用して抗うつ薬を選択する群と,通常治療群の2群に無作為に患者を割り付けた。

評価項目はPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9),Generalized Anxiety Disorder-7(GAD-7),コロンビア自殺重症度評価尺度(Columbia-Suicide Severity Rating Scale:C-SSRS),Veterans RAND 12-item Health survey and physical health,改訂版National Institute on Drug Abuse’s Alcohol, Smoking, and Substance Involvement Screening Test,飲酒量,喫煙,薬剤の副作用,DSM-5の心的外傷後ストレス障害(PTSD)チェックリストとした。

主要転帰は,介入開始30日以内における薬剤‐遺伝子相互作用の頻度(なし,中等度,重大の3群に分類)と寛解率(寛解はPHQ-9評点が5点以下と定義)とした。副次転帰は治療反応率(PHQ-9評点が基準時点より50%低下を反応と定義),PHQ-9評点の変化とした。これらの項目を基準時点,4,8,12,18,24週後に調査した。

主要転帰,副次転帰は一般化推定方程式(generalized estimating equations)ロジスティック回帰分析を用いて比較した。サブグループ解析として年齢,人種,性別,PTSDの有無,治療現場の種類,治療抵抗性うつ病の有無で同様の比較を行った。

結果

1,944名が本研究に参加し,966名が遺伝薬理学的検査結果利用群,978名が通常治療群に割り付けられた。平均年齢は48歳,25%が女性であり,79%が24週間の評価を終了した。

遺伝薬理学的検査結果利用群では,潜在的な薬剤‐遺伝子相互作用がない薬剤を処方する割合が高かった[薬剤‐遺伝子相互作用なし vs 中等度/重大な薬剤‐遺伝子相互作用のオッズ比(OR)=4.32,95%信頼区間(CI):3.47-5.39,p<0.001;薬剤‐遺伝子相互作用なし/中等度 vs 重大な薬剤‐遺伝子相互作用のOR=2.08,95%CI:1.52-2.84,p=0.005)。薬剤‐遺伝子の相互作用リスクがない薬剤,中等度の薬剤,重大な薬剤を処方された割合は,遺伝薬理学的検査結果利用群でそれぞれ59.3%,30.0%,10.7%であり,通常治療群では25.7%,54.6%,19.7%であった。

8週目,12週目では遺伝学的検査結果利用群で有意に寛解率が高かったものの,4週目,18週目,24週目では有意な差は認められなかった。24週時点の寛解率は遺伝薬理学的検査結果利用群で17.2%,通常治療群で16.0%であり,有意な差は認められなかった[リスク差(risk difference)=1.5%,95%CI:-2.4-5.3%,p=0.45]。

24週時点の反応率にも有意な差は認められなかった(32.1% vs 27.5%,リスク差=5.1%,95%CI:0.6-9.6%,p=0.02)。一方で,遺伝薬理学的検査結果利用群の方が24週時点における症状改善度は大きかった[5.4 vs 4.8,平均症状差(mean symptom difference)=0.65,95%CI:0.10-1.19,p=0.02]。有害事象は認められなかった。

結論

うつ病患者の治療において,遺伝薬理学的検査の結果を利用することにより薬剤‐遺伝子相互作用を起こす薬剤の処方頻度が減ったものの,抑うつ症状の寛解率に与える影響は小さく,症状の寛解は短期間にとどまった。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(石田 琢人)

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