身体活動とうつ病リスクの関連:系統的レビューとメタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 79, 550-559, 2022 Association Between Physical Activity and Risk of Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis. Pearce, M., Garcia, L., Abbas, A., et al.

背景と目的

うつ病はメンタルヘルス関連の疾病負担の主な原因であり,身体活動によって軽減される可能性があるが,身体活動の程度とうつ病の用量反応的な関連は不明である。うつ病を予防するには,確立された危険因子を低減させる効果的な介入が必要である。

本研究の目的は,身体活動とうつ病の用量反応の関連を調査することである。また,より高いレベルの身体活動によって予防可能となるうつ病患者数を推定した。

方法

PubMed,SCOPUS,Web of Science,PsycINFO等の検索データを利用して,18歳以上の成人3,000名以上を対象とし,三つ以上の曝露レベル区分での身体活動とうつ病のリスクの推定値を報告した,追跡期間3年以上の前方視的コホート研究を組み入れた。

2段階の変量効果用量反応メタ解析を使用し,身体活動とうつ病の間の用量反応の関連をモデル化し解析した。

主要転帰は,①医師の診断の自己報告,登録データ,診断面接によるうつ病の存在,②うつ病スクリーニングでのカットオフ値を用いて確定した抑うつ症状の増加,とした。

結果

日本の研究1件を含む15件の前方視的研究を対象に,系統的レビュー及びメタ解析を行った。参加者は191,130名(女性約64%),抑うつイベントは28,806名,2,110,588人‐年であった。

身体活動レベルは,参加者の78%で週に17.5mMET時間未満,95%では週に35mMET時間未満であった。身体活動とうつ病は曲線形で逆相関の用量反応を示し,身体活動の曝露レベルの低い方がうつ病リスクの変化が大きかった。全く運動をしていないと報告した参加者と比べて,ガイドラインで推奨される身体活動量(週に8.8mMET時間≒活発なウォーキング約150分/週)の参加者では,うつ病リスクが25%[95%信頼区間(CI):18-32%]低く,その半分(4.4mMET-時間/週)の活動量の参加者でもリスクが18%(95%CI:13-23%)低かった。

全ての成人が週に8.8mMET時間以上の身体活動をしていた場合,うつ病の11.5%(95%CI:7.7-15.4%)を予防できると推測された。

考察

本研究は,身体活動とうつ病の関連を報告した最初の用量反応メタ解析である。身体活動によりうつ病のリスクがどのように変化するかを直接モデル化し,リスクを定量化した。抑うつ症状が多いと身体活動が低い傾向が認められ,身体活動が多い人はうつ病リスクが低かった。推奨活動量である週に150分の活発なウォーキング相当の運動をしている人はうつ病のリスクが25%低く,その半分の運動量でもリスクは18%低くなっており,ガイドラインで推奨されている量を満たさない運動量であっても,メンタルヘルスに良い影響が現れていた。以上の因果関係から推測すると,人口全員が推奨レベルで運動していれば,うつ病患者の9人に1人が予防できる可能性があり,メンタルヘルスの改善のためには運動習慣づくりを奨励すべきである。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(石﨑 潤子)

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