健常対照者とうつ病患者との間における認知因子構造と測定不変性

J PSYCHIATR RES, 151, 598-605, 2022 Cognitive Factor Structure and Measurement Invariance Between Healthy Controls and Patients With Major Depressive Disorder. Yang, K.-C., Hsieh, W.-C., Chou, Y.-H.

はじめに

うつ病(MDD)では複数の領域における認知障害が存在することがメタ解析で示されており,症状とは独立して機能的予後を左右すると報告されている。MDDに対する通常の治療では認知障害は有意には改善しない。認知領域を評価するには認知テスト・バッテリーが使用されるが,その結果は相互関係が複雑で一貫性を欠いている。

因子分析によりデータの削減が可能になり,多群確認的因子分析(multi-group confirmatory factor analyses:MGCFA)は群間の因子構造を比較し測定不変性(measurement invariance:群間で因子モデルの妥当性が等しいこと)を評価するために用いられる。著者らは,MGCFAにより健常対照者とMDD患者の間における認知因子の測定不変性を評価する認知モデルを構築した。

方法

対象のMDD患者は54名で,DSM-Ⅳ-TRのMDDの診断基準を満たし,モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)で20点以上の中等症または重症の患者とした。認知評価はGo/No-Go課題,分割的注意課題,カラートレイル検査(Color Trails Test:CTT),ウェクスラー記憶検査(Wechsler Memory Scale:WMS-Ⅲ)のWord Lists testとFace test,ウィスコンシンカード分類検査(Wisconsin Card Sorting Test:WCST)を用いて行った。健常対照者は200名である。

結果

106名の健常対照者に対する探索的因子分析(exploratory factor analyses:EFA)により注意,記憶,遂行機能の3因子モデルが見出された。このモデルを別の94名の健常対照者に適用して,確認的因子分析(confirmatory factor analyses:CFA)により評価した。13の測定指標による3因子モデルの適合度(goodness-of-fit)統計を行った結果は「普通」(fair)であった[p<0.001,90%信頼区間(CI):0.031-0.052]。3因子の因子負荷量(factor loading)は0.3を超え,有意(p<0.01)であった。3因子の概念的妥当性(construct reliability)は「普通」(ω係数は,注意0.74,記憶0.78,遂行機能0.95)であった。従って3因子モデルは予後評価の決定的なモデルとして選別された。

一方,3因子モデルを54名のMDD患者に適用して評価したところ,適合度統計は「望ましい」(satisfactory)であった(p<0.05,90%CI:0.000-0.056)。MGCFAを行ったところ,健常対照者とMDD患者との間で年齢と教育年数に有意な差が存在しても測定不変性は維持されていた。健常対照者における3因子モデルの得点と人口統計学的変数との関連については,年齢と各認知因子との間に有意な負の相関が認められた。性別はどの認知因子の有意な予測変数でもなかった。MDD患者をマッチングさせた健常対照者と比較したところ,記憶と遂行機能で有意に低い因子得点を示した(記憶p=0.04,遂行機能p=0.03)。

健常対照者では,注意(r=0.90),記憶(r=0.96),遂行機能(r=0.97)の因子得点と集成値(composite score)との間に有意な相関が認められた(p<0.001)。MDD患者では,注意(r=0.85),記憶(r=0.97),遂行機能(r=0.98)の因子得点と集成値との間で有意な相関が認められた(p<0.001)。更にMDD患者では,記憶(p=0.046),遂行機能(p=0.04)の得点が健常対照者より有意に低かった。まとめると,認知因子得点と年齢・教育年数との相関,及び認知因子得点における群間差のエフェクトサイズにより,3因子モデルの外的妥当性が立証された。

結論

本研究の限界として,サンプルサイズが小さいことが挙げられる。本論文は,MGCFAを用いた健常対照者とMDD患者の間における認知モデルの測定不変性を示した最初の研究報告である。測定不変性は,因子得点やその相関と,他のマーカーとの妥当な比較を確証する。本研究の結果はMDDにおける認知障害の治療戦略の発展に有用であろう。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(久江 洋企)

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