臨床的うつ病の既往と認知症の関連,そして社会人口統計学的因子の役割:地域住民ベースのコホート研究

BR J PSYCHIATRY, 221, 410-416, 2022 Association Between a History of Clinical Depression and Dementia, and the Role of Sociodemographic Factors: Population-Based Cohort Study. Korhonen, K., Tarkiainen, L., Leinonen, T., et al.

背景

うつ病は認知症発症リスクの上昇と関連することがわかってきたが,長期的な関連についてはまだ十分検討されていない。これまでの研究はうつ病と認知症発症の時間的関係について検討していないという限界がある。また,うつ病と長期的な認知症発症リスクの関連に対して,社会人口統計学的因子がどのように影響するかについての検討も不十分である。うつ病の有病率が高く,高齢化が進む現状において,うつ病と認知症の関連の検討は急務と言える。

目的

臨床的うつ病の既往が後の認知症発症と関連しているかどうかを評価するために,観察された社会人口統計学的因子と,同胞に共通する観察されない因子(家庭環境や遺伝因子)を制御して,性別,教育レベル,配偶者の有無がうつ病と認知症との関連に影響するかどうかを検証する。認知症の前駆期が発症の10~15年前から始まることから,うつ病に関する情報は認知症についての追跡時点よりも15~30年前のものを集めた。

方法

65歳以上の高齢者1,616,321人を対象として,2001~2018年に行政の医療データを用いて全国的なコホート研究を実施した。認知症の追跡開始15~30年前の期間における全国病院記録からうつ病の既往を確認した。

従来型及び同胞固定効果Cox回帰モデルを用いて,うつ病の既往,社会人口統計学的因子,認知症との関連を分析した。

結果

従来型Coxモデルにおいて,教育歴,婚姻状況,アルコール関連疾患,慢性閉塞性肺疾患/喘息,糖尿病,冠動脈疾患,心血管障害は認知症発症リスクと関連した。うつ病の既往のある参加者における認知症発症ハザード比(HR)は,教育歴・婚姻状況について調整後は1.30[95%信頼区間(CI):1.27-1.34]で,合併症について調整後は1.27(95%CI:1.23-1.31)であった。

同胞固定効果モデルでは,生涯未婚であること,アルコール関連疾患,糖尿病が認知症発症リスクと関連した(表)。うつ病既往のある参加者における認知症発症HRは,教育歴・婚姻状況について調整後は1.60(95%CI:1.13-2.27)で,合併症について調整後は1.55(95%CI:1.09-2.20)であった。

うつ病は,全ての教育レベルにおいて同様に認知症リスクの上昇と関連していたが,その関連は,既婚者よりも寡婦(夫)の方が弱く(p=0.003),女性よりも男性で強かった(p=0.006)。そして男性におけるリスク上昇は,共変量調整後には有意ではなくなった。

考察

本研究では,教育歴,婚姻状況,合併症で調整後も,更に同胞と共通した特徴について調整後も,うつ病の既往が後の認知症発症リスクと一貫して関連することを示した。性別や婚姻状況によってリスクの強さは変化するものの,特定の社会人口統計学的因子に特異的な認知症発症リスクはないことが本研究で初めて示された。また,同胞に関する解析から,うつ病と認知症の関連は人生早期の家庭背景や遺伝因子によるものではないことも示された。本研究の結果は因果関係を立証するものではないが,うつ病が認知症の病因的な危険因子であるという仮説を支持する。

また,本研究の結果から,特に抑うつ症状が重度の場合はうつ病患者に対して長期的な認知機能の追跡が必要であることや,うつ病既往を認知症早期発見に生かすべきであることが示された。更に,うつ病に対する介入が認知症予防に繋がることも示唆される。

表.臨床的うつ病の既往の認知症発症に関するハザード比と共変数:同胞固定効果Cox回帰モデル

257号(No.5)2022年12月19日公開

(三村 悠)

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