家族内対照研究におけるうつ病と双極性障害と大麻使用障害の併存・共集積

JAMA PSYCHIATRY, 79, 727-735, 2022 Comorbidity and Coaggregation of Major Depressive Disorder and Bipolar Disorder and Cannabis Use Disorder in a Controlled Family Study. Quick, C. R., Conway, K. P., Swendsen, J., et al.

背景

大麻は米国で最も高い頻度で使用されている違法薬物であり,その使用頻度は更に上昇している。大麻使用障害(CUD)と気分障害の関連は強く,うつ病(MDD)はCUDのリスク上昇,高い重症度,低い治療アドヒアランスと関連する。また,双極性障害によりCUDのリスクが2.5~5倍となり,大麻使用により双極性障害の様々な予後が悪化することが報告されている。いくつかの家族内対照研究により,CUDは家族内で集積することが報告され,遺伝的・環境的因子がCUDに関与していることが報告されている。しかし,気分障害とCUDが家族内で相互伝達されるかどうかは明らかになっていない。本研究は,対象者及びその第一度近親者(以下,親族)への診断面接を行い,CUD,双極Ⅰ型障害(BP-Ⅰ),双極Ⅱ型障害(BP-Ⅱ),MDDの家族内の集積,共集積について調査した。

方法

2004年5月~2020年8月に,ワシントンDCの都市圏における地域スクリーニング,米国国立衛生研究所臨床センターからのボランティア紹介,医師からの紹介,研究ウェブサイトからの募集により合計586名の対象者を組み入れた。対象者の組み入れ基準は,英語を話せることと,2名以上の存命の親族と連絡が取れることとした。

半構造的面談を用いて,BP-Ⅰ,BP-Ⅱ,MDD,不安症,CUD,CUD以外の物質使用障害の生涯有病率について評価し,これを各診断の有無として用いた。

対象者及び親族における併存する精神障害について,CUDの有無でロジスティック回帰及び混合効果ロジスティック回帰で比較した。

結果

586名の対象者(女性395名)と698名の親族(女性437名)が組み入れられ,平均年齢(標準偏差)は対象者が47.5(15.2)歳,親族が49.6(18.0)歳であった。対象者は114名(19.5%)がBP-Ⅰ,72名(12.3%)がBP-Ⅱ,192名(32.8%)がMDDであった。対象者のうち55名(9.4%),親族のうち68名(9.7%)にCUDの既往があった。CUDの対象者は,CUDでない対象者と比較してBP-Ⅰ及びBP-Ⅱの頻度が高かったが,MDDには有意な差がなかった(BP-Ⅰ:38.2% vs 17.5%,p<0.001;BP-Ⅱ:25.5% vs 10.9%,p=0.002;MDD:27.3% vs 33.3%,p=0.36)。また,CUDの親族は,CUDでない親族と比較してBP-Ⅱ及びMDDの頻度が高かったが,BP-Ⅰには有意な差がなかった(BP-Ⅰ:5.9% vs 4.4%;p=0.72,BP-Ⅱ:20.6% vs 7.1%,p<0.001;MDD:55.9% vs 39.0%,p=0.007)。

混合効果ロジスティック回帰分析の結果,CUDの対象者の親族は,CUDでない対象者の親族と比較して,CUDのリスクが高かった[調整オッズ比(aOR)=2.64,95%信頼区間(CI):1.20-5.79,p=0.02]。また,BP-Ⅱの対象者の親族は,そうではない対象者の親族と比較して,CUDのリスクは2倍以上であった(aOR=2.57,95%CI:1.06-6.23,p=0.04)。一方で,対象者におけるBP-ⅠもしくはMDDには,親族のCUDのリスクとの間に有意な関連はなかった。また,対象者におけるCUDは,親族のいずれの気分障害とも有意な関連がなかった。

対象者及び親族におけるBP-Ⅱはそれぞれ独立して親族におけるCUDのリスク上昇と関連していたため,親族におけるBP-Ⅱ有無とCUDの頻度を調査したところ,親族のCUDリスクと親族及び対象者のBP-Ⅱの既往との間には用量依存性の関連が認められた(対象者と親族共にBP-Ⅱではない場合の親族のCUD頻度=7.2%,対象者と親族共にBPⅡの場合の親族のCUD頻度=28.6%)。

限界

本研究にはいくつかの限界が存在する。第一に本研究は横断研究であり,気分障害とCUDの前方視的関係について結論づけることはできない。また,全体のサンプルは大きいにもかかわらずCUDの基準を満たした対象者と親族の数が少なかったため,一部の検定で統計学的検出力がなかった。また,診断については想起バイアスの影響を受けている可能性がある。

結論

対象者におけるBP-Ⅱ及びCUDは,親族のCUDリスク上昇と関連しており,BP-ⅡとCUDには共通するメカニズムがあるのかもしれない。全国的な大麻合法化の傾向が進み,おそらく高力価大麻の入手が可能になることも一因となってCUDの蔓延に繋がる可能性があることから,発症予防戦略の開発に対する新たな投資や,CUD併存の基礎となる生物学的・心理学的・社会的メカニズムを検討する研究が求められている。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(内田 貴仁)

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