摂食障害のタイプと全般的な身体疾患の併存

BR J PSYCHIATRY, 220, 279-286, 2022 Comorbidity Between Types of Eating Disorder and General Medical Conditions. Momen, N. C., Plana-Ripoll, O., Bulik, C. M., et al.

背景

身体疾患の有病率は精神障害に罹患している人の方が健常者よりも高く,その関係性は双方向的で,精神障害があると後に身体疾患に罹患することが多く,身体疾患があると特定の精神障害のリスクが高くなる。摂食障害は独特の誘発因子と身体的な後遺症を有する精神疾患であり,神経性やせ症,神経性大食症,特定不能の摂食障害に分類される。これらは身体的疾患の併存率や死亡率が高いだけでなく,長期的に身体的影響を及ぼすが,その関連性は不明である。

本研究ではデンマークの全国的な登録データを用いて,摂食障害と身体疾患について性別特異的な相対リスクと,摂食障害の種類ごとに身体疾患の絶対リスクを算出した。

方法

本研究は,デンマーク国民登録データ(Danish Civil Registration System)で特定された,1977~2010年のデンマークにおける全出生者2,127,404名を対象とした。

神経性やせ症,その他の摂食障害(神経性大食症と特定不能の摂食障害)の二つの摂食障害と12の身体疾患(神経系,感染症,免疫,呼吸器,消化器,皮膚,筋骨格系,泌尿生殖系,循環器,内分泌,先天性,外傷)による組み合わせ46組(先天性奇形が摂食障害の後に診断される場合を除く)の各ペア間の関連を推定した。追跡調査は1983年1月1日もしくは個人の6歳の誕生日のどちらか遅い方から開始とした。摂食障害が先行し,身体疾患が後発する場合については1983~2016年に特定の摂食障害の診断を受けたかどうかに応じて追跡期間中に身体疾患に罹患するリスクを推定し,追跡調査前に慢性身体疾患(感染症,外傷を除く全て)の診断を受けていた個人は除外した。身体疾患が先行し,摂食障害が後発する場合については1977~2016年に特定の身体疾患の診断を受けたかどうかに応じて追跡期間中に摂食障害に罹患するリスクを推定し,追跡調査前に摂食障害の診断を受けていた個人は除外した。

統計解析については,年齢を基礎的な時間尺度としたCox比例ハザードモデルによって得られたハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を用いてそれぞれの先行疾患に曝露罹患した個人としなかった個人の間で特定の後発疾患の診断される率を比較した。また,個人の後発する疾患や死亡,移住の同時リスクを考慮しながら競合リスク生存分析を使用し,先行する疾患に罹患した後に特定の後発する疾患と診断される場合の累積発生率(CIP)を推定した。

結果

相対的なリスクについては,摂食障害が先行し,身体疾患が後発する場合は,22組のうち21組で全ての個人(男女合計)において,後発する身体疾患のリスクの上昇が見られた。最もHRが高かったのは循環器疾患(HR=2.05,95%CI:1.86-2.27)で,最もHRが低かったのは免疫疾患(HR=0.94,95%CI:0.57-1.55)であった。男女別でHRが最も高かったのは,男性では内分泌疾患(HR=4.02,95%CI:2.75-5.86),女性では循環器疾患(HR=1.99,95%CI:1.79-2.21)であった。身体疾患が先行し,摂食障害が後発する場合は,全ての個人において後発する摂食障害に罹患するリスクが上昇していた。最もHRが高かったのは循環器疾患の既往(HR=1.98,95%CI:1.71-2.28)であり,最も低かったのは先天性疾患(HR=1.35,95%CI:1.26-1.45)であった。男女別では,男性で最もHRが高かったのは免疫疾患(HR=4.96,95%CI:1.59-15.41),女性では循環器疾患(HR=1.99,95%CI:1.72-2.31)の既往であった。

絶対的なリスクについては,摂食障害が先行し,身体疾患が後発する場合は,全ての組において身体疾患のCIPは摂食障害の既往のある個人の方がない者よりも高かった。CIPが最も高かったのは神経性やせ症‐外傷(CIP=67.5%,95%CI:65.0-70.0%)の組であった。身体疾患が先行し,摂食障害が後発する場合は,全ての組において摂食障害のCIPは身体疾患の既往のある個人の方がない者よりも高かった。CIPが最も高かったのは内分泌疾患‐神経性やせ症(CIP=0.89%,95%CI:0.80-1.01%)の組であった。

結論

本研究の結果は,摂食障害と身体疾患の双方向のリスク上昇を強調するものであった。この知見は,特に摂食障害の患者を扱っている臨床医にとって,身体疾患の早期発見に寄与するという点で有用であると思われる。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(渡邉 慎太郎)

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