メラトニン作動性薬剤が健常者と精神科患者の睡眠覚醒リズム及び概日リズムに及ぼす影響:無作為化対照試験の系統的レビューとメタ解析

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 47, 1523-1536, 2022 Melatonergic Agents Influence the Sleep-Wake and Circadian Rhythms in Healthy and Psychiatric Participants: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Moon, E., Partonen, T., Beaulieu, S., et al.

背景

不眠症の治療に使用される外因性メラトニン作動薬は,概日リズムも調節する可能性があることが示唆されている。本系統的レビューでは,概日リズムと睡眠覚醒リズムの乱れに対する治療の指針とするため,外因性メラトニンまたはメラトニン作動薬を用いた無作為化対照試験(RCT)に関する知見をまとめた。

方法

タイトルと抄録に,メラトニン作動薬関連キーワード,概日リズム関連キーワード,RCT関連キーワードが含まれ,1980年1月から2020年5月までに出版された論文を,EMBASE,PubMed,Web of Science,Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature,Cochrane Libraryで検索した。

抽出されたものから,①健常者と精神障害患者のメラトニンリズムと睡眠覚醒周期に対しメラトニン作動薬の影響を検証している,②RCT,③対象年齢が18~65歳,④睡眠覚醒周期や概日メラトニンリズムなどの体内リズムに関するデータを有する論文を検証した。

メタ解析では比較群間の標準化平均差(SMD)を用い,健常者に外因性メラトニンを使用したRCTについては投与時間と投与量に応じたメタ分散分析を行った。

結果

健常者を対象としたRCTは30報あった(外因性メラトニン26報,agomelatine* 1報,ラメルテオン3報,tasimelteon* 1報)。投与時間による効果比較では,18時及び20時の外因性メラトニン投与は入眠潜時を有意に短縮させた。投与量では,0.3mg,1mgといった比較的低用量で入眠潜時を有意に短縮し,2mg,5mgといった比較的高用量では有意な効果を示さなかった。メタ分散分析で,外因性メラトニンとtasimelteonは,健常者の入眠潜時を有意に短縮させ(SMD:メラトニン-0.505 vs tasimelteon -0.499),睡眠効率を改善させた(SMD:メラトニン0.332 vs tasimelteon 0.528)。ラメルテオンとtasimelteonは,健常者の全睡眠時間を有意に増加させた(SMD:ラメルテオン0.329 vs tasimelteon 0.526)。

精神障害患者を対象としたRCTは8報で,そのうち外因性メラトニンに関する論文は3報であった。放出制御型メラトニンはプラセボと比べて,統合失調症患者19名のRCTで睡眠効率を改善したが,統合失調症患者14名のRCTでは睡眠状況を悪化させた。大うつ病エピソード患者33名の並行群間試験では,徐放性メラトニンとプラセボとの間で睡眠パラメータに有意な差はなかった。AgomelatineについてもRCTが3報あった。うつ病(MDD)患者313名におけるセルトラリンとの比較試験,MDD患者138名におけるエスシタロプラムとの比較試験,MDD患者10名を対象としたRCTで,agomelatineには,活動量の上昇や睡眠潜時の短縮などが認められた。ラメルテオンについてはRCTが2報あり,ラメルテオンにより統合失調症患者120名のRCTで血中や尿中の睡眠パラメータの変化,不眠症を有する成人の注意欠如・多動症患者36名におけるRCTで睡眠中間点の早期化が認められた。しかし,これら精神科患者における知見を総合すると,外因性メラトニンやラメルテオンは入眠潜時や睡眠効率などに有意な効果を示さなかった。

考察

健常者における外因性メラトニンを用いた研究のほとんどで,概日リズムの前進効果が示された。外因性メラトニン及びメラトニン作動性受容体作動薬は,乱れた概日リズム及び睡眠覚醒リズムを修正するのに有効である可能性がある。精神科患者における検証には,今後大規模なRCTが必要である。

*日本国内では未発売

257号(No.5)2022年12月19日公開

(櫻井 準)

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