長期的な大麻使用と中年期における認知予備能及び海馬容積

AM J PSYCHIATRY, 179, 362-374, 2022 Long-Term Cannabis Use and Cognitive Reserves and Hippocampal Volume in Midlife. Meier, M. H., Caspi, A., Knodt, A. R., et al.

背景

青少年や若年者の大麻使用者を対象とした症例対照研究では,わずかな認知機能低下と脳構造の変化が報告されてきた。これらの認知機能低下や脳構造の変化が,中年期以降により顕著になってくるかどうかについてはこれまで十分に明らかにされてこなかった。海馬はカンナビノイド受容体が豊富であり,海馬が担う学習や記憶といった機能は大麻使用者で一致して障害されることが報告されている。本研究では,一般人口を対象とした出生から45歳までの前方視的コホートにおいて,大麻使用,認知機能,海馬容積の関係を調べた。

方法

ニュージーランド南島の都市ダニーデンにおける1972年4月~1973年3月の出生者の前方視的コホート(1,037名,男性は52%)を用いて研究を行った。長期的な大麻使用がある群(86名,男性は64%)に対して,①生涯にわたって大麻使用のない群(202名,男性は41%),②中年期に娯楽的な(週に1回を超えない範囲での使用で,依存がない)大麻使用のある群(65名,男性は59%),③長期的な喫煙歴(週に1回以上の大麻使用と依存がこれまでにない)のある群(75名,男性は40%),④長期的な飲酒歴(週に1回以上の大麻使用と依存がこれまでにない)のある群(57名,男性は56%),⑤大麻使用をやめた(45歳の時点で大麻使用がないが,かつて大麻の依存症と診断されたか週4回以上の常習歴がある)群(60名,男性は62%)を比較した。18,21,26,32,38,45歳で物質使用の有無を評価した。

7~11歳の間に児童向けウェクスラー知能検査(Wechsler Intelligence Scale for Children-Revised)を行い,45歳でウェクスラー成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale-IV)を行った。更に,45歳時には種々の認知機能検査を行った。45歳時に頭部核磁気共鳴画像(MRI)T1強調画像を撮像し,海馬容積を,FreeSurfer 6.0版を用いて解析した。

結果

長期的な大麻使用がある群では,児童から成人の間でIQが5.5低下し,これは大麻使用のない群(0.70上昇),長期的な喫煙歴のある群(1.5低下),長期的な飲酒歴のある群(0.50低下)と比較して低下が有意に大きかったが,中年期に娯楽的な大麻使用のある群(3.5低下),大麻使用をやめた群(3.3低下)と比較すると有意な差は認められなかった。45歳時の認知機能検査では,長期的な大麻使用がある群では,大麻使用のない群と比較してほとんどの課題で成績低下が認められ,長期的な喫煙歴のある群と比較して学習と記憶,処理速度で成績低下,長期的な飲酒歴のある群と比較して学習と記憶,遂行機能,知覚推論,言語理解,処理速度で成績低下,中年期に娯楽的な大麻使用のある群と比較して学習と記憶で成績低下が認められた。一方で,大麻使用をやめた群と比較すると,いずれの課題でも成績低下は認められなかった。

45歳時の頭部MRI検査では,長期的な大麻使用がある群では,大麻使用のない群及び中年期に娯楽的な大麻使用のある群と比較して両側の海馬容積の減少が認められた。一方で,長期的な喫煙歴のある群,長期的な飲酒歴のある群,大麻使用をやめた群と比べると海馬容積の有意な減少は認められなかった。

結論

長期的な大麻使用は,中年期における認知機能低下及び海馬容積の減少をもたらす。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(黒瀬 心)

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