人口ベースの研究で気分と行動の季節変動が自殺傾向と無価値感に寄与する

J PSYCHIATR RES, 150, 184-188, 2022 Seasonal Changes in Mood and Behavior Contribute to Suicidality and Worthlessness in a Population-Based Study. Palmu, R., Koskinen, S., Partonen, T.

はじめに

自殺及び自殺企図は季節性のパターンに従っているようだが,希死念慮が季節性のパターンに従っているかどうかはわかっていない。気分と行動の季節変動と自殺傾向,無価値感の関連を示す証拠は限られている。本研究では,自殺傾向と無価値感が気分と行動の季節変動に関連しているかどうかを分析した。

方法

2011年,フィンランド在住の一般人口を代表する無作為に抽出された18歳以上の集団が,全国的な健康診断調査「健康2011調査(Health 2011 Survey)」に参加した。このうち4,069名の参加者から得られた気分と行動の季節変動,自殺傾向,無価値感のデータが分析に用いられた。

気分と行動の季節変動は,季節性パターン評価質問票(Seasonal Pattern Assessment Questionnaire:SPAQ)の一部である自記式のグローバル季節スコア(Global Seasonality Score:GSS)により測定した。GSSは睡眠時間,社会活動,気分,体重,食欲,エネルギーレベルの季節性の変動をそれぞれ0~3点で評価し,0~18点の合計点が得られるように修正して用いた。加えて,問題として経験される季節変動の項目を0~4点で評点した。自殺傾向の評価として,18~28歳の参加者には「自殺を真剣に考えたことがあるか」「計画的あるいは計画的でない自殺を試みたことがあるか」という具体的な二つの質問に回答するよう求め,29歳以上の参加者にはベック抑うつ質問票(BDI)-13の項目7「自責的願望」を使用した。無価値感の評価として,自殺傾向と強く関連する全般健康質問票(General Health Questionnaire:GHQ)-12の項目11「自分には価値がないと感じること」を用いた。

ロジスティック回帰モデルを用いて,気分と行動の季節変動が自殺傾向と無価値感に及ぼす影響を分析した。年齢,性別で調整した単変量モデル,年齢,性別,教育レベル,居住地域で調整した多変量モデルを計算した。

結果

単変量モデルでは,GSSの6項目と,問題として経験される季節変動の項目全てが,自殺傾向及び無価値感と有意に関連していた(表)。多変量モデルでは,GSSの気分の項目と,問題として経験される季節変動の項目が依然として,自殺傾向及び無価値感と有意に関連していた(表)。

考察

フィンランド在住の18歳以上の一般人口集団において,気分と行動のが自殺傾向と無価値感の双方に強い関連を示した。無価値感は自殺傾向に関連することが知られている。従って,気分と行動の季節変動の評価は自殺傾向の情報も含んでいると思われる。

本研究の強みはフィンランドに住む18歳以上の一般人口集団を用いていることで,GSSは患者だけでなく一般人口の評価にも広く応用できることが検証された。

ただし,本研究にはいくつかの限界もある。研究デザインが横断的なものであったため,気分や行動の季節変動と自殺行動や無価値感との因果関係は分析できなかった。また,主観的なデータが収集されているだけでなく,評価内容が単純である。更に,メンタルヘルスの負の側面と関連することが知られる概日リズムのデータも収集できなかった。

結論

気分と行動の季節変動は,自殺傾向と無価値感の双方に強い関連がある。

表.フィンランドの人口ベースの健康2011調査において,自殺傾向は気分と行動の季節変動によって説明される

257号(No.5)2022年12月19日公開

(倉持 信)

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