報酬,知覚,認知,行動に対するヒトの予測誤差のメタ解析

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 47, 1339-1349, 2022 Meta-Analysis of Human Prediction Error for Incentives, Perception, Cognition, and Action. Corlett, P. R., Mollick, J. A., Kober, H.

背景

霊長類の中脳では,予測誤差(prediction error:PE)信号が,期待される報酬と経験された報酬とのずれとして記録されている。この信号は強化学習理論に基づき,期待値を更新し,行動の変化を起こす。

近年,PEの研究は機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて知覚,社会,言語,因果推論の範囲まで拡大している。

本研究では報酬系に関する研究の定量的メタ解析を実施した。本研究の目的は,処理領域間のメカニズムとして呼び出されるPEが,共通の神経基盤を有しているのか,もしくは,それぞれの領域が独自のPEを備えているのかを明らかにすることである。

方法

Google Scholarを使用し,1999~2018年に発表されたPEに関する論文を以下の用語で検索した:①“predic* AND error* AND (fMRI OR imaging OR neuroimaging) AND (learning OR conditioning)”, ②“reinforcement AND (fMRI OR imaging OR neuroimaging) AND (learning OR conditioning)”。対象論文は,①被験者が18~65歳,②fMRIを使用,③タライラッハまたはモントリオール神経研究所(MNI)座標を表示,④画像減算またはパラメトリックモデルによりPE活性化領域を決定している,ものとした。

メタ解析は機能的神経画像で得られたヒトのPEデータを用いて,マルチレベルカーネルベース密度法(MKDA)で行った。多重比較にはファミリーワイズ誤差補正を使用し,バイアスは神経画像メタ解析の先行研究に準じて評価した。

結果

報酬,罰,行動,認知,知覚についてのPEを検討した合計263報の論文,464の比較解析がメタ解析に含まれた。

PEの領域一般理論モデルと同様に,認知及び報酬学習課題では中脳PE信号が観察された。また,知覚,社会,認知,報酬PEでは島PE信号が観察された。視覚認識課題では視覚階層,社会的推論課題では背内側前頭前野に領域特異的なエラー信号があることが示された。

考察

本研究では,課題横断的に背側線条体,腹側線条体,島がPEに関連する脳領域であることが示唆された。このことは先行研究と同様に,中脳ドパミン神経細胞が因果関係や知覚的期待のずれに反応することを示している。これらの信号は,特にパブロフ型,機器型,知覚型のPE信号の交点を調べた時に線条体で観察された。視覚の予測処理の説明と同様に,視覚処理階層にまたがる知覚的PE信号も観察された。

本研究の限界は,サンプルサイズが小さいことと,いくつかの研究で関心領域(ROI)が明らかでないことが挙げられるが,サンプルサイズによって各研究を重み付けし,全脳とROIベースの結果を直接比較することで対処している。

*ワイルドカード

257号(No.5)2022年12月19日公開

(岩田 祐輔)

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