【from Japan】
線条体外ドーパミンD2/3受容体結合能,安静時機能的結合性と自閉スペクトラム症の社会的コミュニケーションの困難:PETと機能的MRI研究

MOL PSYCHIATRY, 27, 2106-2113, 2022 Extrastriatal Dopamine D2/3 Receptor Binding, Functional Connectivity, and Autism Socio-Communicational Deficits: A PET and fMRI study. Chihiro Murayama, Toshiki Iwabuchi, Yasuhiko Kato, Masamichi Yokokura, Taeko Harada, Takafumi Goto, Taishi Tamayama, Yosuke Kameno, Tomoyasu Wakuda, Hitoshi Kuwabara, Atsushi Senju, Sadahiko Nishizawa, Yasuomi Ouchi, Hidenori Yamasue

村山 千尋 先生

浜松医科大学医学部精神医学講座

村山 千尋先生 写真

背景

自閉スペクトラム症(ASD)の中核症状である社会的コミュニケーションの困難と,限定された反復的な行動様式について原因は未解明である。ASDの社会的動機付け仮説では,社会的コミュニケーションの困難は社会的注意と報酬のネットワークの異常から生じるとされており,これらのネットワークにおいてドーパミンは重要な神経伝達物質である。また,機能的核磁気共鳴画像(fMRI)研究で,報酬課題や社会的刺激に対する線条体外領域における賦活不全がASD者において報告されている。しかし,ASD者の線条体外領域のドーパミンD2/3受容体の利用率を調べた報告はない。また,ASD者において脳の安静時機能的結合性の異常が多数報告されているが,その分子生物学的機序は不明である。

そこで,線条体外領域のドーパミンD2/3受容体を検出できる[11C]FLB457を用いた陽電子放出断層撮影(PET)とfMRIを組み合わせ,ASD者の線条体外領域のドーパミンD2/3受容体利用率に定型発達者と比べて差異があるのかどうか,また差異のある領域のドーパミンD2/3受容体利用率は社会的コミュニケーションの困難や脳の機能的結合性と関係するかどうかを調べた。

方法

向精神薬を服薬しておらず知的障害のない成人のASD男性22名と,年齢と知能指数に差のない定型発達の男性24名を対象として,放射性リガンドに[11C]FLB457を用いてPETを撮像し,また同日に安静時fMRIを撮像した。

結果

分散分析の結果,診断(F9,440=22.905,p<0.001)及び関心領域(F9,440=117.964,p<0.001)の主効果は有意で,診断と関心領域の交互作用(F9,440=0.603,p=0.794)は有意ではなかったことから,ASD者では定型発達者と比べて,線条体外領域全体でドーパミンD2/3受容体利用率が有意に低下し,低下の度合いは関心領域間で有意な差は認められないことが示された。低下のエフェクトサイズを算出すると,視床後部領域で大きく(d=0.95),視床中部外側領域及び前部内側領域,扁桃体,背側前部帯状回で中程度(0.8>d>0.5)であった。

更に,ASD者において,視床後部領域でのドーパミンD2/3受容体利用率の低下と自閉症診断観察スケジュールの中で社会的コミュニケーションを反映する社会的感情の点数が有意に逆相関していた(r=-0.68,Bonferroni補正p<0.05)。

安静時機能的結合性についての多変量パターン解析の結果からは,視床‐上側頭溝及び小脳‐内側後頭皮質の機能的結合性と線条体外領域のドーパミンD2/3受容体利用率の間の相関パターンがASD者と定型発達者で有意に異なっていた。

考察

ASD者におけるドーパミンD2/3受容体の利用率の低下が比較的大きかった視床の亜区域,扁桃体,背側前部帯状回は,過去のメタ解析で報酬課題実施中のASD者における賦活不全が報告されている。このため,本研究結果はASDの社会的動機付け仮説にドーパミンD2/3受容体の利用率低下という分子的な裏付けを与えたものと考えられる。

視床後部領域では,ASD者におけるドーパミンD2/3受容体の利用率が最も低下しており,しかもその低下は社会的コミュニケーションの困難さと相関していた。視床後部領域の大部分を占める視床枕は,上丘,扁桃体と共に皮質下経路を構成し,視覚的な社会的注意に関係する。ASDの高速路調節モデルは,この皮質下経路の機能異常がASDの社会的コミュニケーションの困難を引き起こしていると提唱しており,本研究の結果はこのモデルを支持し,分子的な裏付けを与えたものと考えられる。

ASD者に特異的に,線条体外領域のドーパミンD2/3受容体利用率の低下と視床‐上側頭溝及び小脳‐内側後頭皮質の機能的結合性の低下が相関していたことから,ASDにおける脳の結合性異常の分子的な背景にはドーパミンD2/3受容体の発現変化が関係していることが示唆された。

257号(No.5)2022年12月19日公開

(村山 千尋)

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