小児期の心的外傷が統合失調症スペクトラム障害に対する抗精神病薬の効果に与える影響:実用的な前方視的準無作為化試験

SCHIZOPHR RES, 246, 49-59, 2022 Impact of Childhood Trauma on Antipsychotic Effectiveness in Schizophrenia Spectrum Disorders: A Prospective, Pragmatic, Semi-Randomized Trial. Mørkved, N., Johnsen, E., Kroken, R.A., et al.

背景

統合失調症スペクトラム障害(SSD)に対する抗精神病薬の効果には多様性があり,患者の3分の1は,最初の抗精神病薬によって十分な治療反応を得られない。これまでに男性,若い発症年齢,罹病期間及び未治療期間(DUP)の長さなどが抗精神病薬の薬効の低さを予測する因子として同定されてきたが,小児期の心的外傷(CT)についても,精神障害への薬物療法に影響を与えるのみならず,SSDに対する抗精神病薬の効果に,薬の種類に応じて異なった影響を与えるかもしれない。

CTはSSDの発症率を3倍に上げるのみならず,SSDを治療抵抗性にさせる可能性が報告されてきた。CTを持つSSD患者においては,治療反応の遅さや高用量の抗精神病薬使用,寛解率の低さが認められた。

個別化治療アプローチに際して,CTが抗精神病薬の効果に与える影響についての知見を深める必要があり,本研究においては,SSDに対するamisulpride*,アリピプラゾール,オランザピンの薬効にCTが与える影響を,52週にわたって追跡した。CTの有無による,SSD症状の基準時点からの変化の違いを比較するのみならず,CTを持つ患者において,抗精神病薬の種類による効果の違いを予測できるかどうかについての検討も行った。

方法

本研究はSSDに対する上記3剤の効果を比較する多施設参画の準無作為化前方視的試験(BeSt InTro study)の一部である。ICD-10のF20~29診断基準のいずれかを満たし,陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)のP1,P3,P5,P6,G9項目のいずれかが4点以上という条件を満たす18歳以上の98名を組み入れた(うち34名は未治療)。物質関連精神病や器質性精神病,一部のホルモン産生腫瘍等がある場合は除外した。

参加者を,amisulpride群37名,アリピプラゾール群34名,オランザピン群27名に無作為に割り付けたが,用量は臨床現場にて決定した。割り付けられた薬剤が忍容性の問題等で投与できなかった場合は,残り2種類の中から再選択した。当初の割り付けを元にした解析をintention to treat(ITT)群,二次割り付け後の結果を元にした解析をper-protocol(PP)解析とした。CTの有無(CTなし~軽度CT群と,中等度~重度CT群の2群に分類)の判別には小児心的外傷質問票短縮版(Childhood Trauma Questionnaire Short-Form:CTQ-SF)を用いた。SSDの重症度及びその変化はSCI-PANSSを用いて判定した。

結果

基準時点における重症度などの指標には,抑うつを除いてCTの有無による有意差は認められなかった。その後の経過について,ITT解析とPP解析による結果の違いも認められなかった。26~39週目において,CTあり群はCTなし群よりもPANSS評点が有意に高かったが,薬剤による治療反応性の違いについては,両群間で有意差は認められなかった(図)。

結論

CTを持つSSD患者においては抗精神病薬の治療効果が弱く,かつ遅延することが示された。薬剤による効果の違いを検討するためには,長期間にわたる評価が望まれる。

*日本国内で未発売

図.小児の心的外傷あり/なし群における,抗精神病薬の種類ごとのPANSS評点

258号(No.6)2023年3月9日公開

(滝上 紘之)

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