統合失調症の陰性症状に対する非侵襲的脳刺激の系統的レビューとネットワークメタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 79, 770-779, 2022 Assessment of Noninvasive Brain Stimulation Interventions for Negative Symptoms of Schizophrenia: A Systematic Review and Network Meta-analysis. Tseng, P.-T., Zeng, B.-S., Hung, C.-M., et al.

背景

統合失調症の三つの症状(陽性症状,陰性症状,認知機能障害)のうち,陰性症状は陽性症状よりも患者の生活の質(QOL)や社会生活に悪影響を及ぼすと考えられている。抗精神病薬は主に陽性症状に有効であり,陰性症状に対する有効な治療法は確立されていない。

機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)研究により,中脳皮質神経に投射される背外側前頭前野(DLPFC)‐中脳領域間の機能的結合性異常があることが示されているが,これが統合失調症の陰性症状と関連しており,治療によるこれらの領域の結合性の変化により陰性症状を改善できる可能性がある。これまでの研究により,非侵襲的脳刺激(NIBS)療法が神経精神疾患の改善や認知機能の調整の手助けをする可能性が示唆されているが,陽性症状に対するメタ解析が多く,陰性症状に対する有効性のエビデンスに欠けている。

本研究では,NIBS療法の陰性症状に対する有効性,及び各NIBSプロトコルの有効性・忍容性を検討した。

方法

ClinicalKey,Cochrane CENTRAL,PubMedなどのデータベースを用い,2021年12月7日までに発表された統合失調症に対するNIBS療法の無作為化臨床試験(RCT)を抽出した。陰性症状に対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS),シータバースト刺激法(TBS),経頭蓋ランダムノイズ刺激法(tRNS),経皮迷走神経刺激法,経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)の有効性と忍容性を検討する目的で,系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した。

主要評価項目は陰性症状の重症度変化及び忍容性(何らかの理由による脱落率)とし,副次評価項目は陽性症状及び抑うつ症状の変化とした。

結果

抽出した101報の論文から,48報のRCTが解析対象となり,参加者は2,211名(平均年齢38.7歳,女性30.6%),平均治療期間は2.8週,平均研究期間は9週であった。

解析の結果,対側脳領域に対する他の抑制性刺激の有無にかかわらず,シャム刺激群と比べ左DLPFC(F3領域)へのNIBS療法(tRNS,間欠的TBS,高周波rTMS,超高周波rTMS)による陰性症状の有意な改善が認められた。シャム刺激群と比べたNIBS療法における陰性症状改善の標準化平均差は,ハイディフィニションtRNSが−2.19[95%信頼区間(CI):-3.36-−1.02],間欠的TBSが-1.32(95%CI:-1.88--0.76),陽極tDCSが-1.28(95%CI:-2.55--0.02),高周波rTMSが-0.43(95%CI:-0.68--0.18),超高周波rTMSが-0.45(95%CI:-0.79--0.12)であった。

忍容性については,いずれのNIBS療法においても,シャム刺激群との間に有意な差は認められなかった。

NIBS療法ではシャム刺激群と比べて,陽性症状についてはiTBS-F3以外では有意な変化が認められず,抑うつ症状に対して有意な改善が見られたのはa-tDCS-F3Fp1+c-tDCS-F4Fp2療法のみで[SMD=-0.79(95%CI:-1.43--0.15)],左右の前頭皮質に対する10-Hz rTMSでは抑うつ症状に有意な悪化が見られた[SMD=0.73(95%CI:0.10-1.36)]。

考察

本研究は,統合失調症の陰性症状に対するNIBS療法の潜在的効果を直接的に調査した最初のネットワークメタ解析である。左DLPFCに対するいずれのNIBS療法でも統合失調症の陰性症状が有意に改善していた。

本研究では対象となった研究数が少ないため,今後は適切にデザインされた大規模RCTでの追加検証が必要である。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(石﨑 潤子)

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