初回エピソード精神病に対する早期介入サービス中の転帰とその後の転帰:RAISE-ETPサイト無作為化試験による5年間の成績

SCHIZOPHR BULL, 48, 1021-1031, 2022 Outcomes During and After Early Intervention Services for First-Episode Psychosis: Results Over 5 Years From the RAISE-ETP Site-Randomized Trial. Robinson, D. G., Schooler, N. R., Marcy, P., et al.

はじめに

初回エピソード精神病(FEP)に対する早期介入サービス(EIS)は標準治療よりも良好な転帰をもたらす。しかし,EIS中止後の症状転帰の改善は過去の研究では確認されていない。本研究では,EIS(NAVIGATE)を標準治療と比較した多施設共同無作為化試験であるRAISE-Early Treatment Program(RAISE-ETP)の5年間の成績について,EISとその後の非EISの治療を含む経過について調べた。

方法

参加者は15~40歳で,DSM-Ⅳ構造化診断面接(SCID)により統合失調症,統合失調感情障害,統合失調症様障害,短期精神病性障害,特定不能の精神病性障害と診断され,精神病性エピソードを1回のみ経験し,抗精神病薬の服薬期間が生涯で6ヶ月未満あった者とした。

NAVIGATEには,コンピューターによる意思決定支援システムを用いた個別化薬物管理(PMM),家族の心理教育(FE),レジリエンスに焦点を当てた個人療法(IRT),支援教育/雇用(SEE)という四つの協調介入が含まれている。対照条件であるコミュニティケア(CC)では,制限なく臨床医の選択により治療が決定された。本研究では,サイト(クラスター)無作為化を採用し,NAVIGATEとCCにそれぞれ17施設が登録された。

NAVIGATEの期間が転帰に影響するかどうかを調べるため,参加者によりNAVIGATEの機会の長さが異なるように指定した。NAVIGATE終了後,参加者は所属施設の決定に従ってケアを受けた。

5年間にわたって6ヶ月ごとに,Heinrichs-Carpenter生活の質尺度(QLS),陽性・陰性症状評価尺度(PANSS),サービス利用・リソース申込書(Service Use and Resource Form:SURF)を用いて評価を行った。

解析はintention-to-treatの原則に従った。一次解析では,データが無作為に欠落していない(NMAR)と仮定し,感度解析では,データが無作為に欠落している(MAR)と仮定した。QLSとPANSSの総評点及び下位尺度の解析には,3レベル混合効果線形回帰モデルを使用した。NAVIGATEを受ける機会の効果を調べるために,QLSの総評点と治療及び治療‐時間交互作用のモデルに,機会を時間変化する共変量として追加した(CC参加者の機会は0とした)。QLSとPANSSのエフェクトサイズは,関心のある転帰の推定平均差を,5年後のプールされた標準偏差の推定値で割ることで算出した。

結果

NAVIGATE施設には223名,CC施設には181名が登録された。参加者の平均年齢は23歳で,72.5%が男性であった。統合失調症の診断が53%,次いで統合失調感情障害が21%,統合失調症様障害が13%であった。追跡期間が2年未満であったのは158名,2年以上5年未満が126名,5年が120名であった。参加期間が長いほどPANSSとQLSの評点が良く,研究を完了する可能性が高いことが報告された。

主要評価項目のQLSの総評点には,有意な治療‐時間交互作用が認められた[限界最大尤度推定値(MMLE)=4.162,標準誤差(SE)=1.002,p<0.001]。5年間の経過におけるQLSの差は13.14単位で,NAVIGATEが有利であった。エフェクトサイズは0.856であった。

副次評価項目のPANSS総評点については,全体として有意な治療‐時間の交互作用が同定され(MMLE=-2.445,SE=0.764,p<0.002),5年間で-7.73単位の得点差があり,NAVIGATE群が有利であった。エフェクトサイズは0.70であった。QLSの全ての下位尺度において,治療と時間の交互作用が統計的に有意であった。PANSSでは,陰性症状下位尺度の治療‐時間効果のみが有意でなかった。NAVIGATE対象者がNAVIGATEを受けた期間の平均は33.8ヶ月[標準偏差(SD)=5.1]であった(範囲24.8~44.4,中央値=33.9ヶ月)。NAVIGATEを受ける機会の長さには,QLSの総評点の結果に対する有意な効果は認められなかった(MMLE=0.0403,SE=0.1103,p=0.72)。

考察

NAVIGATEはCCと比較して5年間で,QLSで0.856,PANSS総評点で0.70のエフェクトサイズを示し,大きな効果があることがわかった。NAVIGATEは5年間の入院日数の短縮と関連していた。5年間追跡できた割合が低いため結論には限界があるが,CCと比較してNAVIGATEには長期的な有益性があることが裏付けられた。これらの利点は,治療に関する個人の意思決定や,プログラムの開発・実施・支援に関する政策決定に重要である。 

258号(No.6)2023年3月9日公開

(野村 信行)

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