成人の統合失調症及びその他の精神障害におけるパーソナル・リカバリー促進因子の有効性:レビューの系統的レビューと叙述的総評

SCHIZOPHR RES, 246, 132-147, 2022 Effectiveness of Personal Recovery Facilitators in Adults With Schizophrenia and Other Psychoses: A Systematic Review of Reviews and Narrative Synthesis. Isaacs, A. N., Brooks, H., Lawn, S., et al.

背景

パーソナル・リカバリーとは,回復を「症状の軽減」ではなく「病気による制限があっても満足し希望を持ち貢献できる人生を送る方法」とする考え方である。患者が家族や友人,社会とのつながりを感じ,将来への希望を持ち,病気とは別のアイデンティティを確立し,雇用やボランティア活動への参加によって社会的・経済的に生産的な生活を送る力を得たと感じる時,パーソナル・リカバリーの道を歩んでいると考えられる。

目的

成人の統合失調症及びその他の精神障害におけるパーソナル・リカバリー促進因子(PRF)の使用に関するエビデンスの性質,範囲,質を明らかにし,有効性を評価することを目的として本研究を行った。

方法

DSM-5において統合失調症スペクトラム障害及びその他の精神障害と診断された成人患者におけるPRFの使用に関連する査読付き系統的レビューのうち,2020年1月から2022年2月までに英語で発表されたものを対象にアンブレラ・レビューを実施した。各データは,一般にCHIMEフレームワークと呼ばれるパーソナル・リカバリーの五つの回復プロセス(つながり,希望と楽観,アイデンティティ,意味と目的,エンパワーメント)に分類した。レビュー間の異質性からメタ解析の実施は不可能であったため,レビュー結果を分析・統合・合成する叙述的総評を実施した。

結果

13種類のPRFに関する21報の系統的レビューが含まれた。CHIMEフレームワークに従って個人の回復プロセスを直接測定しようとしていたレビューは1報のみであった。効果測定は,ほとんどが希望(21報)とつながり(19報)のプロセスに沿ったものであった。エンパワーメント(2報),アイデンティティ(5報),意味と目的(1報)に関連するものはPRFの焦点となることは少なかった。質の高いレビューは5報のみであり,これによりヨガが希望と楽観を改善することが示され,中等度の質のレビューにより音楽療法がつながりと希望と楽観を改善することが示された。職業治療と統合的援助付き雇用も,希望と楽観,特に経済面のエンパワーメント,つながり,自己効力感を改善する可能性が示された。

考察

ヨガ及び関連する運動は,社会的機能と生活の質の向上を示し,つながりや希望の向上に寄与した。総合的支援雇用によって,より長期の雇用成果と自己効力感を達成できると考えられ,自信を与えることと前向きなアイデンティティに繋がる可能性を示した。しかし,その効果を十分に検証するためには更に確固とした研究が必要である。

本研究の限界として,第一に,年齢を制限することで初回精神病エピソードが除外されていることが挙げられる。若年者を主に扱う早期精神病が本レビューから除外される傾向にあった。第二に,研究の転帰評価尺度がパーソナル・リカバリーに十分に焦点をあてていなかったため,いくつかの重要なPRFが除外された。実際にはパーソナル・リカバリーの概念は数十年前から主流になっており,複数の尺度が利用できる。これらの尺度は従来の生活満足度などと異なり,設計の際に患者や市民の参画があることから,使用することで研究の品質と適切性を高めると考えられる。それなのに使用されない理由としては,研究デザインの転帰において生物医学的モデルへの接近が優勢であり続け,パーソナル・リカバリーが未定着であることが挙げられる。パーソナル・リカバリーに特に焦点をあてた研究が1報しかなかったことも示唆的である。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(下村 雄太郎)

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