統合失調症患者における急性期精神病エピソードでのneuronal pentraxin-2(NPTX2)の血清濃度

PSYCHOPHARMACOLOGY, 239, 2585-2591, 2022 Neuronal pentraxin-2 (NPTX2) serum levels during an acute psychotic episode in patients with schizophrenia. Göverti, D., Büyüklüoğlu, N., Kaya, H., et al.

背景

統合失調症の病態生理は完全には解明されておらず,背景にある病態を説明するためにいくつかの理論が試みられている。近年,統合失調症の病態生理として神経発達の概念が重要性を増してきている。統合失調症患者で小児期の神経発達過程において生じる微細な感覚及び運動症状,認知機能障害,精神病症状の極めて重要な部分にシナプス可塑性が関与している。シナプス可塑性は脳の成熟過程において神経回路を形成し,樹状突起の増加と減少,及びシナプス後膜のamino-3-hydroxy-5-methyl-4- isoxazole propionic receptors(AMPA受容体)の挿入と除去によって特徴づけられる。

AMPAにより調整される興奮性シナプス凝集に関与するのがneuronal pentraxinであり,neuronal pentraxin 1(NPTX1)とneuronal pentraxin 2(NPTX2)とから成る。NPTX2は脳に広く,特に海馬,歯状回,小脳,大脳皮質に発現しており,シナプス活動に反応して放出されシナプス後膜上のAMPA受容体の凝集を増進し,シナプス発達の早期段階で興奮性シナプス形成を刺激する。恒常的なシナプス可塑性が障害されていると考えられる神経疾患,アルツハイマー病,パーキンソン病,前頭側頭型認知症,てんかんなどで,NPTX2は調べられてきた。精神疾患においても,不安,嗜癖,統合失調症などで調べられており,統合失調症では,NPTX2遺伝子発現とmRNAのダウンレギュレーションが死後脳研究や動物研究で報告されているが,生体では十分に評価されてこなかった。

そこで,本研究では,統合失調症の急性期精神病エピソードにおいて血清NPTX2濃度を計測し,年齢・性別をマッチさせた健常者と比較した。

方法

精神科に入院しており,DSM-5で統合失調症と診断された93名と,DSM-5構造化臨床面接(SCID-5)で主要な精神疾患が否定された健常者83名を組み入れた。統合失調症患者には,陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)と臨床全般印象度‐重症度(Clinical Global Impression-Severity scale:CGI-S)により評価を行った。患者群は全て急性期の精神病エピソードであり,PANSSで60点超,及び二つ以上の主要な項目で4点以上であった。30名は初回の精神病エピソードで,薬剤未投与であった。

結果

統合失調症群と対照群の間には,年齢・性別に統計学的な差はなかった。血清NPTX2濃度は統合失調症群で有意に高かった(p<0.001)。

NPTX2濃度は年齢(p=0.004)及びPANSSの陽性症状尺度(p<0.001)と負の相関を示し,PANSSの総合精神病理尺度(p=0.002)と正の相関を示した。血清NPTX2濃度と罹病期間,入院回数,PANSS合計評点及び陰性症状評点,CGI-S評点との間に有意な相関は見られなかった(p>0.05)。

年齢と性別を補正しても,血清NPTX2濃度は統合失調症群で有意に高かった(p<0.001)。重回帰分析では,NPTX2濃度変化の最も強力な予測因子はPANSS陽性症状と総合精神病理尺度の評点であり,血清NPTX2濃度は,PANSSの陽性症状尺度の評点が高くなると減少し(p=0.006),PANSSの総合精神病理尺度の評点が高くなると増加した(p=0.024)。

結論

本研究では,統合失調症患者において初めて血清NPTX2濃度を評価し,有意に上昇していることが示された。過去の死後脳研究や動物研究では,統合失調症においてNPTX2はダウンレギュレーションしていると報告されており,今回の結果は,生体における状態を反映している可能性がある。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(黒瀬 心)

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