統合失調症の女性患者における月経周期に関連した症状の変化:安静時機能的MRI研究

NEUROPSYCHOBIOLOGY, 81, 296-310, 2022 Menstrual Cycle-Related Changes in Women with Schizophrenia: A Resting-State fMRI Study. Noyan, H., Hamamci, A., Firat, Z., et al.

背景

月経周期は,認知・感情・行動に対する卵巣ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の影響を検討するにあたって有用である。これまで卵巣ホルモンが大脳皮質及び皮質‐皮質下の機能的結合性に影響を与えることは,様々な神経画像研究において示されてきた。また同様に,近年の機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)研究では,安静時機能的結合性(RS-FC)が生理周期やホルモンの変動に依存して変化することが示されている。

統合失調症は,知覚・思考・行動など広範な認知機能障害を持つ慢性疾患として知られているが,その症状に卵巣ホルモンが一定の影響を与えることが示されてきた。エストロゲン仮説では,エストロゲンが統合失調症において神経保護効果を持つとされており,エストロゲン濃度の低下が,より重度の陰性症状,認知機能低下,入院回数の増加,抗精神病薬の必要量増加と関連することが明らかにされている。しかし月経周期が統合失調症のRS-FCに及ぼす影響については,まだ研究されていない。

本研究の目的は,健康な対照群と比較して統合失調症患者において,月経周期に関連したホルモンと臨床の変化を調査し,ホルモン濃度が低い群と高い群での二つの周期相におけるRS-FC変化に対する月経周期の影響の可能性を探ることである。著者らは,月経周期におけるホルモンの変動が,対照群と統合失調症群で異なっており,またRS-FCが各周期において2群間で異なると仮定した。

方法

本研究では,統合失調症の女性患者13名(SCZ)と,患者と学歴・年齢をマッチさせた健常女性13名(HC)を対象とした。全ての患者は非定型抗精神病薬による治療を受けていたが,プロラクチンに対する有意な影響はなかった。また,本研究に含まれる全ての被験者の月経周期は規則的かつ正常であった。

RS-fMRI撮像とホルモン及び臨床評価は,卵胞期初期と黄体期中期の二つの周期相にて行った。SCZ患者の臨床評価には,簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale:BPRS),臨床全般印象度(Clinical Global Impression:CGI),統合失調症カルガリー抑うつ尺度(Calgary Depression Rating Scale for Schizophrenia:CDSS),全般的機能評定尺度(Global Assessment of Functioning:GAF)を用いた。

SCZ群とHC群におけるホルモン濃度と臨床変数の群間差は,独立標本t検定または該当する場合はMann-Whitney U検定を用いて分析した。二つの周期相の間のホルモン値と臨床変数は,群内で対の標本のt検定,または該当する場合はWilcoxon rank-sum検定を用いて比較した。RS-FC解析では,独立成分分析(ICA)で生成された27成分のうち,12個の安静時ネットワーク(RSN)が同定され,各RSNのネットワーク結合性を比較するために,両群の周期相の間で対のサンプルt検定を行った。

結果

SCZ群とHC群の比較では,黄体期中期のプロゲステロン値の平均値でのみ,SCZ群において有意な低下が認められた(p=0.04)。また,ホルモン濃度と臨床評価の関連については,寛解期間と黄体期中期のプロゲステロン値に強い正の関連が認められた(rho=0.68,p=0.01)。

RS-FCとの関連については,SCZ群で,エストラジオール値が卵胞期初期に左扁桃体の聴覚ネットワークの結合性と正の相関を示した[p<0.05,ファミリーワイズエラー(FEW)補正]。またSCZ群のGAF評点は,黄体期中期において,右前楔部の頭頂ネットワークの結合性と正の相関を示した(p<0.05,FWE補正)。卵胞期初期には,CDSS評点と右前楔部のデフォルトモード・ネットワーク後方結合性との間に正の相関が認められた(p<0.05,FWE補正)。

結論

本研究では,SCZ群とHC群の間でホルモン濃度の違いが認められ,周期依存性ホルモン濃度が,臨床症状の重症度やRS-FCの変化と関連している可能性が示唆された。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(和田 真孝)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。