統合失調症及び双極性障害のリスクに関する神経相関:構造的及び機能的神経画像研究のメタ解析

BIOL PSYCHIATRY, 92, 375-384, 2022 Neural Correlates of the Risk for Schizophrenia and Bipolar Disorder: A Meta-analysis of Structural and Functional Neuroimaging Studies. Cattarinussi, G., Kubera, K. M., Hirjak, D., et al.

背景

統合失調症(SCZ)と双極性障害(BD)は共通した臨床的特徴を持つ一方,治療反応や経過は異なる。ゲノムワイド関連研究によりSCZが100以上の遺伝子座,BDが約30の遺伝子座と関連していることが明らかにされ,両疾患のリスクが多因子であることが示された。また,いくつかの遺伝子はSCZとBDの両方のリスクに関与していることもわかっている。

SCZやBD患者の近親者(REL)は,患者の遺伝子を最大50%共有しており,脳の構造的・機能的変化という点で同様の神経生物学的特徴を示すと考えられている。つまり,SCZとBDの遺伝的脆弱性に関連する脳の変化を検討することは,中間型表現型,非罹患RELに見られる定量可能な生物学的特性,超高リスク集団における生物学的マーカーの早期発見に役立つと思われる。

本系統的レビューとメタ解析では,①SCZ-RELとBD-RELに共通する脳の変化を健常者(HC)と比較して検出すること,②SCZ-RELとBD-RELの障害特異的変化を特定すること,③異なる画像様式と年齢サンプル間での脳の遺伝性に関連する違いを明らかにすることを目的とした。

方法

PubMed,Scopus,Web of Scienceで,2020年11月以前に発表され,RELとHCを対象とした構造的及び機能的核磁気共鳴画像(MRI)研究を検索した。合計230の神経画像研究を同定し,81の機能的MRI研究,26のボクセル単位の形態計測研究,81の関心領域(Region of Interest:ROI)研究,93の全脳体積研究が含まれた。サンプル数はSCZ-RELが6,274人,BD-RELが1,900人,HCが10,789人であった。

26の構造的MRI研究と,課題タイプにより層別化した81の機能的MRI研究で座標ベースの活性化尤度推定メタ解析を行った。また,局所的及び全体的な体積変化についてもメタ解析を行った。最後に,全てのMRI研究を統合したメタ解析を行った。

結果

構造的MRI研究の解析では,SCZとBDの両方のRELでHCに比較し視床体積の減少が認められた(それぞれp=0.049,p=0.025)。SCZ-RELではBD-RELより海馬体積が減少していた(p=0.0052)。

機能的MRI研究の解析では,SCZ-RELは背外側前頭前野と側頭部にまたがる皮質線条体‐視床ネットワークの変化を示した。一方,BD-RELでは,腹外側前頭前野・上頭頂葉・内側側頭皮質を含む視床‐辺縁系領域の変化を示し,Ⅰ型BDのRELでは前頭頂部の変化も見られた。

構造的MRIと機能的MRIを統合した解析では,SCZ-RELで右背外側前頭前野,BD-RELでは右海馬傍回/右海馬鉤と右腹外側前頭前野に変化が集中していた。

考察

本研究では三つの主要な結論が得られた。まず,視床はSCZとBDの両方のリスクに関連する共通の領域である。次に,SCZの家族性リスクは,背外側前頭前野と側頭部にまたがる皮質線条体‐視床ネットワークの変化と関連している。最後に,BDの家族性リスクは,腹外側前頭前野・上頭頂葉・内側側頭皮質を含む視床皮質及び辺縁系領域における変化と関連しており,Ⅰ型BDのリスクにおいては前頭頂部の変化がより優勢であった。

SCZとBDに共通して見られた視床皮質回路の変化は,両疾患の基礎にある共通の遺伝的メカニズムの発現である可能性がある。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(岩田 祐輔)

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