統合失調症の疾患経過の段階ごとの脳皮質厚の異常:系統的レビューとメタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 79, 560-570, 2022 Cortical Thickness Abnormalities at Different Stages of the Illness Course in Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Zhao, Y., Zhang, Q., Shah, C., et al.

背景

統合失調症の発症前には通常,短期間の精神病症状や機能低下を特徴とする臨床的ハイリスク期がある。臨床的ハイリスク期と精神病初回エピソードの間に生じ得る脳変化は,急性精神病の神経毒性を反映している可能性がある。また,初回エピソード後の長期にわたる統合失調症の経過は,進行性の脳異常に基づいている可能性がある。

統合失調症ハイリスク者より初回エピソード患者の方が脳の異常は顕著なのであろうか? 発症後に脳異常は増大するのであろうか?

近年,脳皮質厚の方が灰白質体積よりも病態生理学的機構をよく反映している可能性が示唆されている。しかし,統合失調症の経過中における,脳皮質厚の変化の有無やその実態については不明瞭である。そこで本研究では,統合失調症の各病期(臨床的ハイリスク者,初回エピソード患者,長期患者)における脳皮質厚の変化の特徴,及びこの変化と臨床的及び人口統計学的変数との関連を解明することを目的とした。

方法

PRISMA(系統的レビュー及びメタ解析のための優先的報告項目)のガイドラインに従って,系統的レビューとメタ解析を行った。PubMed,Embase,Web of Science,Science Directで2021年6月15日以前に発表された脳皮質厚についての研究を調査した。対象は,統合失調症の臨床的ハイリスク者,初回エピソード患者,長期患者〔訳註:5年以上の罹病期間:PROSPEROより〕と健常対照者との全脳皮質厚変化を比較した原著研究とした。

分離メタ解析とプールメタ解析には,シードベースのdマッピングを用い,メタ回帰分析も実施した。主要転帰評価は,各病期における健常対照者との皮質厚の差とした。

結果

解析対象研究は,臨床的ハイリスク者859名[平均(SD)年齢:21.02(2.66)歳,男性66.7%]から成る10件,初回エピソード患者671名[22.87(3.99)歳,男性65.4%]から成る12件,長期統合失調症患者579名[41.58(6.95)歳,男性68.4%]から成る10件であった。

健常対照者と比較して,臨床的ハイリスク者では両側の内側前頭前皮質に皮質菲薄化を示した(z=-1.01,p<0.001)。年齢との間に有意な関連は認められなかった。初回エピソード患者では,右外側上側頭葉皮質(z=-1.34,p<0.001),右前帯状皮質(z=-1.44,p<0.001),右島皮質(z=-1.14,p=0.002)において皮質菲薄化が見られ,いずれにおいても,年齢及び罹病機関との間に有意な関連は認められなかった。長期統合失調症患者では,右島皮質(z=-3.25,p<0.001),右下前頭皮質(z=-2.19,p<0.001),左側頭極(z=-2.37,p<0.001),右側頭極(z=-1.94,p=0.002)において脳皮質厚の減少が示され,左前側頭皮質においてのみ,罹病期間と皮質厚の減少との関連が認められた(R2=0.60,p=0.003)。

臨床的ハイリスク者と初回エピソード患者の間に有意な皮質厚の差は認められなかった。長期統合失調症患者では,初回エピソード患者に比して,右島皮質(z=-2.58,p<0.001),右下前頭皮質(z=-2.32,p<0.001),左側頭皮質(z=-1.91,p=0.002),右側頭極(z=-1.82,p=0.002)において皮質菲薄化が大きかった。

加齢と脳皮質厚の菲薄化増大との相関は,両側外側中側頭皮質(左側:R2=0.64,p<0.001;右側:R2=0.44,p<0.001)及び下前頭皮質の右側眼窩(R2=0.28,p=0.004)で認められた。

限界

本研究の限界として,初診時での鑑別診断が困難であることが挙げられる。初回エピソード研究12報のうち4報に,後に感情障害圏の診断となった患者が含まれていた(10%以下)。また,投薬量に関する情報が不十分で,抗精神病薬の影響を評価できていなかったことや,臨床的ハイリスク者の基準を満たした対象者では異質性が高かったことなどが挙げられる。

結論

本研究では,初回エピソード精神病患者と臨床的ハイリスク者との間に有意な差が認められなかったことより,精神病の発症が脳皮質厚減少とは強固に関連しないことが示唆された。初回エピソード患者と比較して,長期統合失調症患者では年齢と共に前頭側頭領域で皮質菲薄化が増加し,発症後の神経解剖学的変化を反映していることが示唆された。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(尾鷲 登志美)

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