父親の年齢と微細な神経徴候は,統合失調症の診断のための信頼性と妥当性のある神経生物学的な指標である

EUR ARCH PSYCHIATRY CLIN NEUROSCI, 272, 1087-1096, 2022 Paternal Age and Specific Neurological Soft Signs as Reliable and Valid Neurobiological Markers for the Diagnosis of Patients With Schizophrenia. Fountoulakis, K. N., Panagiotidis, P., Tegos, T., et al.

はじめに

統合失調症には微細な神経徴候が頻繁に認められることが過去のいくつかの研究で明らかになっている。この神経徴候には単純な協調運動,複雑な連続運動やその統合,側性の変動性などの障害が含まれ,薬物療法はこれらの障害に影響しないことも明らかになっている。

また,父親の年齢が高齢であればあるほど子の統合失調症のリスクが高まるという研究結果も明らかになってきている。父親の胚細胞に起こるde novo変異の量が年齢と共に蓄積することがこの一因とされている。

本研究の目的は,上記の微細な神経徴候と父親の年齢によって統合失調症を診断する神経生物学的な指標を作成することである。

方法

対象者はDSM-Ⅳ-TRに基づく133名の統合失調症と122名の健常者の合計255名である。

微細な神経徴候は神経学評価尺度(Neurological Evaluation Scale:NES)の感覚統合,運動協調,複雑な連続運動などの下位尺度を用いた。

統計手法としては,機能判別分析を用い,その結果から,神経生物学的な指標である精神神経学的指標(Psychotic Neurological Index:PNI)を作成して,父親の年齢や微細な神経徴候によって統合失調症を診断できるかどうかを調べた。

結果

機能判別分析において統合失調症の診断に影響する因子は,性別(p=0.031),出生時の父親の年齢(p=0.000),NESの感覚統合(p=0.026)及び複雑な連続運動(p=0.000)の4因子であった。父親の年齢とNESの下位尺度との相関は認められなかった(p<0.05)。

PNIは以下の方程式,すなわち,0.991×[性別(男性=1,女性=0)]+0.222×(出生時の父親の年齢)+0.305×(NESの感覚統合)+0.599×(NESの複雑な連続運動)で表された。この値が11.272より大きければ統合失調症であると判別した場合には,健常群は100%正確に健常として分類でき,統合失調症群では83.45%で統合失調症と分類でき,全体としては255名のうち233名(91.37%)において正しく分類することができた。

受信者動作特性(ROC)曲線からPNIのカットオフ値を8.5と定めると,感度は94.74%,特異度は93.44%,陽性尤度比は14.45,陰性尤度比は0.06,陽性的中率は12.73,陰性的中率は99.94,正確度は93.46と,良好な値を得ることができた。

考察

本結果の優れた点は,性別と父親の年齢と微細な神経徴候の三つの要素のみを用いることで統合失調症と健常者を分類する神経生物学的な指標を作ったことである。微細な神経徴候には認知機能の要素も多少含まれているが,基本的に神経学的所見であり,認知機能を測定する神経心理学的所見ではない。従って,本指標は臨床上の症候学や統合失調症の診断基準から独立しているのみならず,認知機能からも独立して,統合失調症と健常者を見分けることができる。

一方で,本研究の問題点は,統合失調症群の全例が以前に入院治療を必要とした患者であることであり,すなわち,より重症型の統合失調症を対象としていた可能性がある。

今後の目標は,本指標を用いることで,統合失調症を双極性障害など他の精神疾患から区別できるかどうか,更には,精神病や統合失調症の発症のリスクがあるが無症状である個人を特定できるかどうかを調べることである。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(船山 道隆)

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