重症精神疾患患者のがんの発症率と死亡率

SCHIZOPHR RES, 246, 260-267, 2022 Cancer Rates and Mortality in People With Severe Mental Illness: Further Evidence of Lack of Parity. Launders, N., Scolamiero, L., Osborn, D. P. J., et al.

はじめに

重症精神疾患(Severe Mental Illness:SMI)を持つ患者では身体的健康度が低く,死亡率が高い。がんに関しては,SMI患者では死亡率が高いことが繰り返し報告されている一方で,発症率については見解が一致していない。

本研究の目的は,SMIの診断とがんの発症率及び死亡率の関係を調査すると共に,SMI患者における早期死亡ががんの発症率に与える影響について調査することである。

方法

英国のプライマリーケアにおける電子カルテのデータベースであるClinical Practice Research DatalinkのGOLD及びAurumを用いてコホートを作成した。SMIを統合失調症,双極性障害,その他の非器質性精神病と定義し,2001年1月1日~2018年12月31日の間にSMIと診断された18歳以上の患者を症例として抽出した。対照群は年齢,性別,プライマリーケアクリニックの場所と登録日をマッチさせ,1症例に対して4例抽出した。

主要転帰はがん(消化管がん,肺がん,乳がん,前立腺がん)の診断,及びがん関連死亡(がんと診断された後の総死亡)とした。共変量は年齢,性別,プライマリーケアの場所,人種,喫煙,体格指数(BMI),時期とした。がんの診断率及びがん関連死亡率を非SMI群と,SMI群,統合失調症群,双極性障害群,その他の非器質性精神病との間でCox回帰分析を用いて比較した。また,SMI群における早期死亡ががん診断率に与える影響を検討するために,総死亡率を競合リスクとして競合リスク分析を行った。

結果

69,632名のSMI患者が特定され,278,528名の対照群を抽出した。SMI患者のうち,21.9%が統合失調症,35.3%が双極性障害,42.7%が非器質性精神病であった。SMI群ではがんの診断率が非SMI群よりも有意に低かった[28.04/10,000 vs 30.11/10,000リスク人‐年,調整ハザード比(aHR) 0.95,95%信頼区間(CI):0.93-0.98]。個別の検討では,非SMI群と比較して,統合失調症(aHR 0.82,95%CI:0.77-0.88),非器質性精神病(aHR 0.92,95%CI:0.89-0.96)では診断率が低く,双極性障害では診断率が高かった(aHR 1.07,95%CI:1.02-1.11)。競合リスク分析を行いがん以外の死亡の影響を考慮した後も,統合失調症及び非器質性精神病では双極性障害及び非SMI群と比較して,がんの診断率が低かった(図)。

がん関連死亡率(がんと診断された後の総死亡率)はSMI群の方が非SMI群よりも高かった(373.43/10,000 vs 328.64/10,000リスク人‐年,aHR 1.20,95%CI:1.14-1.26)。個別の検討でも,統合失調症(aHR 1.61,95%CI:1.42-1.83),双極性障害(aHR 1.24,95%CI:1.14-1.35),非器質性精神病(aHR 1.08,95%CI:1.01-1.16)のいずれの群でも死亡率が高かった。

結論

本研究において,SMI群ではがん診断率が低い一方で,死亡率は高く,特に統合失調症でこの傾向が顕著であった。がんの診断率が低いのは他の原因による早期死亡が多いためであるとの主張もあるが,本研究では早期死亡を考慮に入れた後でもがんの診断率は低いことが示された。SMI患者のがん診断に対する障壁が存在する可能性があり,SMI患者へのがんスクリーニングプログラムの推奨など,がん診断率を向上させるための戦略が必要である。 

図.死亡原因となったがんの診断別の累積発症率

258号(No.6)2023年3月9日公開

(石田 琢人)

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