双極性障害患者における炭酸リチウムとパーキンソン様有害事象のリスクとの関係:日本の医薬品副作用データベースを用いた多変量解析

PSYCHIATRY RES, 314, 114687, 2022 Relationship Between Lithium Carbonate and the Risk of Parkinson-Like Events in Patients With Bipolar Disorders: A Multivariate Analysis Using the Japanese Adverse Drug Event Report Database. Uwai, Y., Nabekura, T.

はじめに

抗精神病薬を含むいくつかの薬剤は,一般的に薬剤性パーキンソニズムを引き起こす。バルプロ酸ナトリウム,炭酸リチウム,抗精神病薬を併用した場合のパーキンソニズムの発症については,現在限られた情報しか得られていない。本研究では,日本の医薬品副作用(Japanese adverse drug event report:JADER)データベースを用いて,双極性障害患者における炭酸リチウムとパーキンソン様有害事象のリスクとの関係を検討し,危険因子を特定することを目的とした。

方法

まず,JADERの原疾患のデータから双極性障害,双極Ⅰ型障害,双極Ⅱ型障害の患者を抽出した。次に,副作用データを用いて薬物有害事象の発生を抽出した。双極性障害,性別,年齢,医薬品の使用を共変量とした多重ロジスティック回帰分析を行った。

結果

データベースから双極性障害患者3,521名を抽出した。診断の内訳は,双極性障害が2,289名,双極I型障害が1,066名,双極II型障害が166名であった。

MedDRA標準検索式を用いて111名(3.15%)にパーキンソン様有害事象を検出した。薬物有害事象の内訳は,パーキンソニズムが43件と最も多く,次いで振戦25件,歩行障害20件,錐体外路障害11件,筋骨格系硬直9件,筋硬直5件であった。

多重ロジスティック回帰分析の結果,50歳以上の年齢[調整オッズ比(aOR)=1.74,95%信頼区間(CI):1.38-2.20,p<0.0001],バルプロ酸ナトリウムの使用(aOR=1.35,95%CI:1.10-1.66,p=0.0241),アリピプラゾールの使用(aOR=1.50,95%CI:1.20-1.88,p=0.0024)がパーキンソン様有害事象の危険因子として同定された。本解析では,炭酸リチウムはパーキンソン様有害事象のリスクを上昇させなかった。

次に,炭酸リチウムと,特定された危険因子との相互作用を,多変量解析により検討した。その結果,炭酸リチウムにより,バルプロ酸ナトリウム投与患者においてパーキンソン様有害事象のリスク上昇が認められた(aOR=1.24,95%CI:1.01-1.52,p=0.0384)。

結論

本研究にはいくつかの限界(報告バイアス,交絡因子など)があり,これらを考慮して解釈する必要があるものの,今回の結果は炭酸リチウムがバルプロ酸ナトリウム服薬患者におけるパーキンソン様有害事象のリスクを上昇させることを示唆している。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(大谷 洋平)

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