双極性障害患者の認知的再教育:セッションへの参加と治療の構成要素の認知的・機能的転帰に対する寄与

J PSYCHIATR RES, 152, 144-151, 2022 Cognitive Remediation for People With Bipolar Disorder: The Contribution of Session Attendance and Therapy Components to Cognitive and Functional Outcomes. Tsapekos, D., Strawbridge, R., Wykes, T.,et al.

はじめに

認知的再教育(CR)は認知機能を改善することを通じて,機能的困難を軽減できる。精神療法の効果にはアドヒアランス(セッションへの参加)が大きく影響すると考えられている。核となるCRの構成要素を組み合わせたプログラムは統合失調症患者において,認知的・機能的転帰に利益が大きいことが報告されているが,双極性障害患者におけるCRのセッション参加及びCRの構成要素と治療転帰との関係は未調査のままである。

本研究では,安定期の双極性障害患者を対象として,CRにおけるセッションへの参加と治療の構成要素が治療転帰に寄与するかどうかを調査する。

方法

本研究は,安定期の双極性障害患者に対する無作為化対照試験のデータを用いた二次解析である。基準時点の評価後,通常治療に加えCRを行った群(n=40)と通常治療のみを行った群(n=40)に無作為に参加者を割り付け,12週間の治療期間を経た後,再評価を行った。

組み入れ基準は,安定した精神科薬物療法を受け,過去1ヶ月以上急性の気分症状が見られないこととした。安定期(euthymia)の定義は,ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)及びヤング躁病評価尺度(YMRS)が1ヶ月以上にわたって7点以下であることとした。除外基準は,過去6ヶ月間の神経障害,パーソナリティ障害,アルコールまたは違法薬物の乱用・依存とした。

CRの提供にはオンラインソフトウェアのCIRCuiTSを使用した。週2~3回1時間のセッションに参加することを目標とし,全ての参加者が最大40セッションを受けることを目指した。統合失調症患者を対象とした研究で得られた証拠に基づき,20時間が治療完了の最小用量の閾値と定義された。

操作変数解析を用いて,セッションへの参加の治療転帰に対する影響を調査した。認知的転帰として四つの認知領域(Digit-symbol coding で処理速度,Digit spanで注意機能と作動記憶,Verbal paired associates Ⅱで言語記憶,Hotel testで遂行機能)を評価した。

機能的転帰については,Functional Assessment Short Testで心理社会的機能,Goal Attainment Scaleで目標達成を評価した。次に,相関を用いて,主要な治療の構成要素(すなわち,密集した訓練,エラーのない学習,戦略の使用,治療者との接触)と治療転帰の変化との関連を検討した。

結果

CR群は全体的な認知機能,心理社会的機能,目標達成の評価で有意な改善を示した。治療を受けた患者は平均27.1セッションに参加し,32名(80%)が最低の20セッションを完了した。

より多いセッションの出席と治療完了の達成は治療成績の改善に関連していた(図)が,その関係は治療完了した者のサブグループ解析において有意ではなかった。

認知的転帰の変化に関連する治療の構成要素はなかったが,心理社会的機能の改善には治療者と接触した時間が関連し(rho=-0.52,p=0.02),目標達成の改善には治療中に選択された有用な戦略の数が関連していた(rho=0.36,p=0.04)。

結論

本研究の結果は,双極性障害患者のCRによる転帰の改善において,セッションへの参加,特に最低限のセッション参加を達成することの重要性を強調している。有用な戦略の使用と治療者との接触は心理社会的機能と個人の回復目標の改善を促進する可能性がある。

図.セッションへの参加が認知的・機能的天気に及ぼす効果の推定

258号(No.6)2023年3月9日公開

(倉持 信)

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