不安症,及び不安症と大うつ病との世代間家族関係についてのスウェーデンにおける拡大的養子縁組研究

AM J PSYCHIATRY, 179, 640-649, 2022 An Extended Swedish Adoption Study of Anxiety Disorder and Its Cross-Generational Familial Relationship With Major Depression. Kendler, K. S., Abrahamsson, L., Ohlsson, H., et al.

背景

様々な家族及び双生児研究により,不安症(AD)には家族性があり,中程度に遺伝性があることが判明している。また,双生児研究ではADの家族類似性はもっぱら遺伝的な影響から生じることが示唆されている。

しかしながら今日まで,ADの養子縁組研究は報告されておらず,AD以外の養子縁組研究では世代を越えての伝達の原因やその強度についての取り組みが行われている。また,ADは大うつ病(MD)と併存することが多く,この二つの障害は多くの遺伝リスクを共有していることが双生児研究で示されている。

今回,著者らはADと診断された六つの家族形態[実の両親のいる核家族,子どもが実父と同居したことがない家族,子どもが実母と同居したことのない家族,子どもが15歳になるまでに10年以上同居している継父のいる家族,子どもが15歳になるまでに10年以上同居している継母のいる家族,養子縁組の家族(実の親の情報が得られている)]についてのスウェーデンの拡大的養子縁組研究を実施した。

方法

本研究の情報はスウェーデンの全国的な登録簿から収集した。病院退院登録,外来診療登録,プライマリーケアデータを用いて,ICD-8,9,10コードでADとMDを,ICD-10コードのみで恐怖症,パニック症,全般不安症,特定不能の不安症(AD-NOS)を診断した。1960~1992年にスウェーデンで生まれ,少なくとも20歳まで国内に居住していた全ての個人を対象とした。

親と子のペアにおいて,AD伝達,MD伝達,AD-MD相互伝達,MD-AD相互伝達について,四分位相関の算出を行った。加重四分位相関の計算と家族間の異質性の検定には,メタ解析固定効果モデルを使用した。異質性の検定では,有意水準を0.05とした。また,ADとMDの遺伝的相関と育成相関を算出した。

結果

六つの家族形態のうち,サンプルサイズが最も大きいのは実の両親がいる家族(子,実母,実父共に1,968,352サンプル)で,最も小さいのは実母と同居したことのない家族(子・実母5,144,実父1,026サンプル)と継母のいる家族(子14,028,実父4,042サンプル)である。ADの割合は親と子どものいずれにおいても,全般的に,実の親と同居したことのない家族と継親の家族で最も高く,養子縁組の家族で中程度であり,実の両親がいる家族で最も低かった。

ADの世代間伝達(親がADで子どももAD)については,四分位相関の結果,母親と父親からは遺伝子+生育の関係で最も強く(0.17と0.15),遺伝子のみの関係では中程度(0.13と0.11),生育のみの関係では最も弱い(0.04と0.06)ことが示された。

ADからMDへの相互伝達(親がADで子どもがMD)については,四分位相関の結果,母親と父親からは,それぞれ,遺伝子+生育の関係で最も強く(0.13と0.12),遺伝子のみの関係では中程度(0.09と0.08),生育のみの関係では最も弱い(0.03と0.05)伝達であった。

MDからADへの相互伝達(親がMDで子どもがAD)については,四分位相関の結果,母親と父親からはそれぞれ,遺伝子+生育の関係で最も強く(0.15と0.13),遺伝子のみの関係では中程度(0.07と0.08),生育のみの関係では最も弱い(0.03と0.06)ことが示された。

MDの世代間伝達(親がMDで子どももMD)については,四分位相関の結果,母親と父親では,それぞれ遺伝子+生育関係で最も強く(0.17と0.14),遺伝子のみの関係では中程度(0.07と0.08),生育のみの関係では最も弱い(0.04と0.07)ことが示された。

MDとADの遺伝的・生育的相関性については,遺伝子のみ,生育のみの結果から遺伝的・生育的交差世代相関を算出すると,MDで0.83[95%信頼区間(CI):0.76-0.90],ADで0.83(95%CI:0.69-0.96)であった。

AD亜型とMDとの世代間相関についての結果の全般的なパターンは,全てのADとMDとの世代間相関について見られるものと同様であり,全般不安症で最も高く,AD-NOSで中程度,パニック症で最も低かった。

結論

本研究は,スウェーデンの全国サンプルに適用した拡大的養子縁組デザイン研究を用いて,ADとその主要な亜型は,主に遺伝的因子の結果として世代を越えて伝達されるが,生育も重要な役割を果たしていることを明らかにした。階層のない診断を検討した場合,ADからMD,MDからADへの親子間の伝達はほぼ対称的で,遺伝的効果と生育効果が同様に混在した結果であり,遺伝的相関と生育的相関が比較的高いことがわかった。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(渡邉 慎太郎)

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