不安症と加齢に伴う生理学的変化

BR J PSYCHIATRY, 221, 528-537, 2022 Anxiety Disorders and Age-Related Changes in Physiology. Mutz, J., Hoppen, T. H., Fabbri, C.,et al.

背景

不安症は世界的に大きな疾病負担を占めており,また罹患率と早期死亡率を上昇させることとも関連している。その死亡率上昇は自殺などの死因のみではなく,認知症や心血管疾患などの罹患率上昇にも起因しており,不安症は生物学的な老化の促進とも関連していると言われている。しかし,不安症を持つ群と健常群の生理学的な差異と,その差異が年齢によって異なるかどうかについては知られていない。

不安症を持つ個人の生理学的マーカーに関する研究の多くでは,焦点となっている生理学的マーカーが1種類または2種類であるため,一連の生理学的測定値を調査する研究は不足している。そのため本横断的研究では,不安症の罹患歴を持つ個人において年齢と15種類の生理学的マーカーとの関連を調べ,健常対照者と比較した。

方法

2006~2010年に英国バイオバンクに登録された37~73歳の成人50万人超のうち,2016~2017年にオンラインのメンタルヘルス質問票(mental health questionnaire:MHQ)を完了した症例が本研究の対象となった。基準時点評価時の年齢を主要な説明変数とした。基準時点における看護師による面接やMHQ,入院記録やプライマリーケアの参考記録を参照し,症状と各生理学的指標を評価した。双極性障害や精神病性障害は身体罹患のリスクと強く関連するため除外した。健常対照群は不安症を持たず,基準時点において向精神薬使用がなく,精神障害を持たない者とした。

共変量には民族,最終学歴/最高専門職資格,身体活動度,喫煙状況,アルコール摂取頻度,睡眠時間,降圧薬の使用などを含めた。

一般化加法モデル(GAM)を用いて,症例群と対照群における各生理学的指標と年齢との関連を推定した。

結果

主なデータセットは,成人332,078名(平均年齢56.37歳,女性52.65%)を含み,参加者のうち44,722名に不安症の既往があった。

男女とも,不安症者は健常対照群に比べ,握力と血圧が低く,脈拍と身体組成測定値は高いことが示された(表)。特に収縮期血圧の差が顕著であった。肺機能,踵骨密度については,それぞれ女性,男性に特有の群間差が認められたが,動脈硬化の群間差は得られなかった(表)。対照群との差は,慢性及び/または重度の不安症を持つ症例を考慮した場合に大きくなる傾向が認められた。うつ病合併の不安症患者を除外すると,ほとんどの統計学的な差は有意ではあるものの小さくなった。しかし,身体組成測定値の差はうつ病合併のない女性ではむしろ小さかった。うつ病合併のない男性でも,体格指数(BMI)及び無脂肪体重は低かった。

不安症のある女性と健常対照群との間の加齢に伴う生理学的変化の差は,血圧,脈拍,身体組成測定値で最も顕著であった。ほとんどの症例対照群間差は年齢と共に縮小したが,高齢者では血圧でより大きな差が認められた。男性では,握力,脈拍,また,ウエスト・ヒップ比と踵骨密度の群間差は年齢と共に小さくなったが,拡張期血圧は不安症のある高齢者では対照群よりも低かった。

結論

生涯において不安症の既往を持つ群では,複数の生理学的指標において健常対照群と異なる結果となった。観察された差異は,慢性度,重篤度,うつ病の併存状況によって異なっていた。

表.不安障害者と健常対象者の生理的指標の違い

258号(No.6)2023年3月9日公開

(内沼 虹衣菜)

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