強迫症患者の神経心理学的機能に対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬の無作為化非盲検予備試験

J PSYCHIATR RES, 151, 439-444, 2022 A Randomized, Open-Label Pilot Trial of Selective Serotonin Reuptake Inhibitors on Neuropsychological Functions in Patients With Obsessive Compulsive Disorder. Brar, J., Sidana, A., Chauhan, N., et al.

背景

強迫症(OCD)は一般的で,慢性の神経精神障害であり,他の不安症と比較し明確な神経生物学的異常と関連していることがわかっている。OCDでは視覚的記憶の障害が最も一貫して報告されているが,神経心理学的な認知障害の特異性については,合意が得られていない。

コクラン・レビューでは,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はOCDの治療に有効であること,また疾患の重症度を下げる効果は全てのSSRIで同等で,副作用のみが異なることが示されている。OCDにおける治療前後の神経心理学的検査の成績を比較した報告はあるが,結果は一貫していない。治療期間中に神経心理学的機能がどのように変化するかについて合意が得られていないことから,本研究は,初回エピソードの薬剤未使用のOCD患者において,神経心理学的機能及び臨床的特徴に対するSSRI(セルトラリンまたはフルボキサミン)による治療の効果を調査することを目的とした。

方法

本研究は,北インドの教育機関である病院の精神科で実施された非盲検無作為化前方視的試験で,intent-to-treat解析を行った。DSM-5によるOCDの診断を受け,18~55歳で,初回エピソードで薬剤未使用の患者50名が含まれた。うつ病,不安症,その他の診断可能な重症度の精神疾患,知的障害,神経疾患, 器質性精神病,認知症,てんかん,カフェインとニコチン以外の物質依存,自殺企図,重度の内科・外科疾患などの合併のある患者,妊娠・授乳中の女性は除外した。

セルトラリンまたはフルボキサミンのいずれかに患者を無作為に割り付けた。SSRI投与前と投与12週後に,NIMHANS神経心理学バッテリー[精神速度(mental speed)に関するDigit Symbol Substitution Test(DSST),持続的注意と精神運動速度に関するDigit Vigilance Test(DVT),言語流暢性に関するControlled Oral Word Association Test(COWA),カテゴリー流暢性に関する動物名テスト(Animal Names Test:ANT),作動記憶に関するN backテスト,反応抑制に関するStroop Test,セットシフトに関するWisconsin Card Sorting Test(WCST)が含まれる]を用いて神経心理学的機能を,エールブラウン強迫尺度(Yale Brown Obsessive Compulsive Scale:Y-BOCS)を用いて重症度を評価した。両群とも初期用量は50mg/日で開始した。用量は,奏効(Y-BOCS評点の35%以上の減少)及び部分奏効(Y-BOCS評点の25%以上,35%未満の減少)の定義に基づき,6週間後までに最大耐容治療用量まで毎週漸増した。初期用量に耐えられない参加者については,初期用量の半分まで減量し,その後,最大耐容治療用量まで漸増した。2週間後,4週間後,6週間後,8週間後に評価を行い,最終評価は12週目に行った。行動療法が必要な患者には,12週間の薬物療法を行った後,施行した。全ての参加者が心理教育セッションを受けた。

結果

セルトラリン群とフルボキサミン群にそれぞれ25名ずつが割り付けられ,合計50名が研究を完了した。セルトラリン群とフルボキサミン群の社会人口統計学的及び臨床的特徴はほぼ同等であったが,配偶者,職業,社会経済的状況には統計学的に有意な差があった。基準時点のOCDの重症度は中程度であった。Y-BOCS評点は基準時点の23.48±6.29から,12週間後の試験終了時点には12.88±8.37へと低下し,統計学的に有意な差が認められた(p=0.000)。

ほぼ全ての被験者の神経心理学的機能になんらかの障害が認められたが,特定のパターンはなかった。52%に言語流暢性(COWA)及び60%にカテゴリー流暢性(ANT)の障害,すなわち遂行機能障害が見られた。DSST(精神速度),DVT(持続的注意),Verbal N Back 1 error(言語性作動記憶),WCST total trials(セットシフト)の評点はY-BOCS評点,すなわち疾患の重症度と有意に相関していることが明らかにされた。

12週後では,疾患の重症度と神経心理学的機能共に有意な改善が認められた。また,様々な神経心理学的検査において,適切な結果であった被験者の割合は,12週目に有意に増加した。また,神経心理学的検査の成績には,二つの治療群の間で統計学的に有意な差は認められなかった。

結論

SSRIによるOCDの適切な治療は,短期的には疾患の重症度と神経心理学的機能の双方に改善をもたらすことが示唆された。しかし,OCDの様々な領域におけるSSRI治療の効果をより理解するためには,厳密な研究デザインを用いた長期的な研究が必要である。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(佐久間 睦貴)

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