東アジア民族におけるアルコール使用障害のゲノムワイドメタ解析

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 47, 1791-1797, 2022 Genome-Wide Meta-Analysis of Alcohol Use Disorder in East Asians. Zhou, H., Kalayasiri, R., Sun, Y., et al.

背景

世界的に,アルコール使用障害(AUD)は罹患率と死亡率の上位を占めている。AUDの発症には遺伝的因子が大きく関与している。AUDのゲノムワイド関連研究(GWAS)は欧州人,アフリカ人,ラテンアメリカ人,アジア人など,複数の民族で完了している。現在までに,435,563名の欧州人を対象とした最大規模のアルコールの問題使用についてのGWASにより,29の独立したリスク多様体が同定された。一方で,東アジア人で最大のAUDのGWASには,この1%にも満たない3,381名(533症例)しか含まれていない。

東アジア人におけるAUDの遺伝的構造については,利用できるサンプルが限定的でGWASの検出力が足りないことから,ほとんど何もわかっていない。

今回,著者らは,過去に発表されたコホートと,新たなタイ及び米国のコホートを組み合わせた五つのデータセットでGWASを実施した。合計で,2,254名のAUD症例を含む,東アジア系の被験者13,551名を解析した。

方法

米国の退役軍人コホートMVP-EAAでAUDと診断されたサンプル,中国のDSM-IVのアルコール依存症コホートHan Chinese-Cyto,Han Chinese-GSA,そしてタイのメタンフェタミン依存症研究のコホートThai METH-GSA,Thai METH-MEGAからアルコール依存症と診断されたサンプルを本研究に組み入れた。

五つのコホートそれぞれの関連解析または要約統計を用い,有効サンプル数加重メタ解析を行った。東アジア人を対象とした独立標本GERAにおいて,AUDのポリジェニックリスクスコアを算出した。また,年齢や性別などを補正した上で,ポリジェニックリスクスコアと表現型との関連を解析した。

結果

2,254名の症例と11,297名の対照者による本メタ解析において,AUDと有意に関連する二つの遺伝子座が確認された(図)。一つはADH1B(アルコール脱水素酵素1B)の多様体rs1229984で,もう一つがBRAP(BRCA1関連タンパク)の多様体rs3782886[ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)の近く]であった。

AUDのポリジェニックリスクスコアは,週当たりの飲酒日数と著明に関連していた(beta=0.43,SE=0.067,p=2.47×10-10)。また,喫煙(本/日)×年数や喫煙歴の有無とも関連が見られたが,Bonferroniの補正により有意差は認められなくなった。

考察

本研究では,13,551名のデータを収集し,東アジア民族において最大規模のアルコール関連形質についてのメタ解析を行った(過去の最大サンプルの4倍)。ADH1B及びALDH2遺伝子座に,従来よりもはるかに強い統計学的有意性を持つ関連が検出された一方,新規のリスク遺伝子座は同定されなかった。これは,他の研究結果ともほぼ一致しているが,一般的にこの規模のサンプルサイズのGWASは,複数の多様体を検出する力が不足している。検出力不足は依然として重要な限界であることから,より多くの東アジア民族の被験者をアルコール関連障害の研究へ組み入れ続けること,また他の研究者にも同じことを促すことが重要である。

図.アルコール使用障害(AUD)のメタ解析における関連性の結果

258号(No.6)2023年3月9日公開

(上野 文彦)

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