不眠症状と自殺行動との潜在的因果関係の遺伝的エビデンス:メンデル無作為化解析研究

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 47, 1672-1679, 2022 Genetic Evidence for a Potential Causal Relationship Between Insomnia Symptoms and Suicidal Behavior: A Mendelian Randomization Study. Nassan, M., Daghlas, I., Winkelman, J. W., et al.

背景

不眠症とレストレスレッグ症候群(RLS)は,気分障害や自殺行動(SB)の危険因子として挙げられる。しかし,これらの関係が因果関係にあるか否かは不明である。本研究では,メンデル無作為化解析を利用して,不眠症とRLSがSB,気分障害,統合失調症(SCZ)と因果関係にあるかどうかを評価することを目的とした。

方法

本研究では,2標本のメンデル無作為化解析を用いて,うつ病(MDD),双極性障害(BP),SCZ,SBのリスクという転帰と(これらのゲノムワイド関連解析要約データはPsychiatric Genomics Consortiumから入手),不眠症状及びRLS(直近の最大規模のゲノムワイド関連解析要約データ)が因果関係にあるかどうかを解析した。

メンデル無作為化解析の主解析では,逆分散加重法を用いた。結果の頑健性を評価するために,複数の感度分析を行った。まず,不眠症状とRLSの遺伝子間で連鎖不均衡にある一塩基多型(SNP)を除外し,2番目に,主解析で有意であった結果と連鎖不均衡にあったSNPを不眠症状とRLSの遺伝子データから除外した。3番目には,多面的関連に関する様々なメンデル無作為化解析の仮定を緩和するモデルベースの感度分析を行った。また,MDD,BP,SBの転帰については,Mass General Brigham(MGB)バイオバンクで再現性を評価した。そして,MDDとBPを曝露とし,不眠症状を転帰としたリバースメンデル無作為化逆分散加重法解析も実施した。

結果

MDD(症例:170,756名/対照:329,443名),BP(症例:20,352名/対照:31,358名),SCZ(症例:69,369名/対照:236,642名),SBコホート(2019)(症例:6,569名/対照:14,996名;本コホートはMDD,BP,SCZの疾患で層別化),SBコホート(2020)(症例:29,782名/対照:519,961名)を転帰コホートとして用いた。

不眠症状については,MDD[オッズ比(OR)=1.23,95%信頼区間(CI):1.2-1.26,p=1.37×10-61],BP(OR=1.15,95%CI:1.07-1.23,p=5.11×-10-5),SBコホート(2019)(OR=1.17,95%CI:1.07-1.27,p=2.30×10-4),SBコホート(2020)(OR=1.24,95%CI:1.18-1.3,p=1.47×10-18)が有意に関連していた。また,SBコホート(2019)の疾病状態によって層別化した解析では,不眠症状がSBに及ぼす影響はうつ病患者で最も頑健であることが示された(OR=1.34,95%CI:1.16-1.54,p=5.97×10-5)。

不眠症状に関する結果は,複数の感度分析でも一貫していた(表)。MGBバイオバンクデータを用いた再現解析においては,不眠症の遺伝的易罹患性がMDD(OR=1.12,95%CI:1.03-1.21,p=0.0096)とSB(OR=1.19,95%CI:1.01-1.40,p=0.03)に及ぼす影響は再現されたが,BPへの影響は再現されなかった。また,BPの遺伝的易罹患性は不眠症状の危険因子でなかったが,MDDの遺伝的易罹患性は不眠症状の危険因子であることがわかった。RLSの遺伝的因子は,いずれの転帰のリスクにも有意な影響を及ぼしていなかった(全ての補正後p>0.05)。

結論

本研究より,不眠症がMDDとは独立して,SBに因果的な影響を及ぼす可能性が示唆され,不眠症がMDDとBPにも因果的な影響を及ぼすという知見が更に強化された。

表.メンデル無作為化の主要解析と感度分析の結果

258号(No.6)2023年3月9日公開

(吉田 和生)

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