うつ病に対する電気痙攣療法後の自殺死亡リスク:傾向スコアで重み付けを行ったカナダでの後方視的コホート研究

LANCET PSYCHIATRY, 9, 435-446, 2022 Risk of Suicide Death Following Electroconvulsive Therapy Treatment for Depression: A Propensity Score-Weighted, Retrospective Cohort Study in Canada. Kaster, T. S., Blumberger, D. M., Gomes, T., et al.

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背景

過去20年間,自殺による死亡率は世界的に上昇している。自殺による死亡リスクを低下させる最も良い方法の一つは精神科入院後のリスクの高い時期に効果的なうつ病治療を行うことである。

電気痙攣療法(ECT)はうつ病に対して最も有効である。ECTには,抗うつ効果と独立して希死念慮に対する効果があることも報告されてきた。ECTが自殺による死亡リスクを低下させるかどうかを調べるには無作為化臨床試験が理想的であるが,稀な転帰の測定に対する十分なサンプルサイズや追跡期間の確保は困難であり,現実的ではない。過去の観察研究の結果は一貫しておらず,適応の交絡があるかもしれない。本研究は,先行研究の方法論的な限界に対処するため,先進的な観察研究デザインを用いてECTと自殺による死亡リスクの関連を調べるために行った。

方法

本研究は,傾向スコアで重み付けを行った後方視的コホート研究である。解析には,2007~2017年にカナダのオンタリオ州の病院に4日以上入院したうつ病患者を対象とした国民ベースのデータを用いた。

主要転帰は退院後365日以内に管理医療記録を用いて同定された自殺による死亡とした。また,副次転帰は,自殺以外の死亡と全死因死亡とした。

主要な解析として,生存時間解析を行った。Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(hazard ratio:HR)を算出した。自殺以外の死亡から原因別ハザード比(cause-specific HR:csHR)を推定した。

結果

67,327名の精神科入院があり(男性27,231名,女性40,096名,平均年齢45.1歳),そのうち4,982名の入院(7.4%)でECTが施行された。

退院後365日以内の自殺による死亡は450名で認められた。傾向スコアによる重み付けを行った解析において,ECTは自殺による死亡リスクの有意な低下と関連していた[csHR=0.53,95%信頼区間(CI):0.31-0.92]。自殺以外の死亡を競合リスクとして考慮しても結果は変わらなかった。ECTは全死因死亡の有意な低下とも関連していたが(HR=0.75,95%CI:0.58-0.97),自殺以外の死亡リスク低下とは関連していなかった(HR=0.83,95%CI:0.61-1.12)。

考察

ECTは自殺による死亡の相対リスクを約50%低下させた。傾向スコアによる調整を行わない解析においては,自殺による死亡リスクの低下が認められていたものの統計学的に有意ではなかったが,臨床特性を調整したことで自殺による死亡リスクの低下は顕著になった。

本研究は観察研究であるため,測定されていない共変量があるかもしれない。しかし,過去の研究からは,行政の健康データと傾向スコアを用いた観察研究により無作為化対照試験と同様の結果が得られることが示唆されている。電極配置や刺激条件のデータはなかったが,臨床研究ではこれらの違いが抑うつ症状へ及ぼす影響の差は小さいことが報告されている。

結論

ECTは自殺による死亡リスクの低下,全死因死亡率の低下と関連していた。本研究の結果は,ECTは重症なうつ病患者の命を救う治療であるという見解を支持する。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(髙宮 彰紘)

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