12歳以下の子どもにおける希死念慮と自傷行動の有病率:系統的レビュー及びメタ解析

LANCET PSYCHIATRY, 9, 703-714, 2022 Prevalence of Suicidal Ideation and Self-Harm Behaviours in Children Aged 12 Years and Younger: A Systematic Review and Meta-Analysis. Geoffroy, M. C., Bouchard, S., Per, M., et al.

背景

12歳以下の子どもにおける自殺のリスクは大きな関心事となっている。思春期以前の自殺は珍しいが,米国では子どもの自殺者数や希死念慮・自殺企図による救急受診者数が増加している。2019年に米国の300の救急病院を対象に希死念慮や自殺企図で受診した5~18歳の子どもや青年の人数を調査したところ,1,613件の受診のうち690件が5~11歳の子どもであったと報告されている。しかし,12歳以下の子どもにおける希死念慮及び自傷行動に関する系統的レビューは存在しない。

そこで本研究では,12歳以下の子どもの希死念慮(自殺計画を含む),自傷行為,自殺企図,非自殺性自傷(NSSI;自殺意思のない自傷行為とも呼ばれる)の有病率に関する文献の系統的レビューを行った。

方法

本研究の組み入れ基準は,①地域住民から12歳以下の子どもを対象とし,②希死念慮(自殺計画を含む)及び自傷行動(特に自傷,自殺企図,NSSI)の有病率を報告し,③フランス語または英語の査読付き雑誌で発表され,④オリジナルデータを含んでいるものとした。症例報告,質的研究,医療機関を受診した者を対象とした研究は除外した。文献検索にあたり,自殺に関連する検索語,小児に関連する検索語を用い,それらをタイトルに含む文献を対象に著者がスクリーニングを行い,最終的に組み入れる論文を決定した。

結果

検索の結果7,188報の論文を同定し,最終的に30件の研究が解析の対象となり,合計で6~12歳の子ども98,044名[女子50.5%,平均年齢(標準偏差)9.5歳(1.4)]が含まれた。30件の研究のうち,自傷行動の評価は,19件が質問票,9件が面接,2件が質問票と面接の両方で行っており,14件が子ども,11件が親,5件が子どもと親の両方を対象にしていた。

希死念慮の有病率を報告した28研究(97,512名)において,ランダム効果モデルにより算出した頻度は7.5%[95%信頼区間(CI):5.9-9.6]であった。希死念慮の情報源ごとのサブグループ分析では,希死念慮の有病率は親だけに面接を行った場合[4.7%(95%CI:3.4-6.6)]と比較して,子どもに面接を行った場合の方が有意に高い頻度で報告されていた(p=0.0004)[子どもだけ:10.9%(95%CI:8.1-14.5),子どもと親の両方:10.4%(95%CI:6.8-15.5)]。

自殺計画の有病率は3件の研究(11,945名)で報告され,頻度は2.2%(95%CI:2.0-2.5)であった。自傷行動の有病率は11研究(70,562名)で報告され,頻度は2.0%(95%CI:0.8-5.0)であった。自殺企図の有病率は6件の研究(53,194名)で報告され,頻度は1.3%(95%CI:1.0-1.9),自傷行為の有病率は4件の研究(5,339名)で報告され,頻度は1.4%(95%CI:0.4-4.7)であった。NSSIについて報告したのは2研究(12,029名)で,頻度は21.9%(95%CI:6.2-54.4)であった。

限界

研究間で重要な異質性が確認され,更に,希死念慮や自傷行動を評価するための手段や項目は,研究によってかなり異なっていた。ある研究では,子どもや親が「死を望む」または「自分を殺したい」,あるいはその両方を述べた場合に希死念慮があると分類されていた。従って,実際の希死念慮ではなく,空想的な考えを反映した,死にたいという願望が含まれている可能性がある。また,いくつかの研究は質が低いこと,研究間で希死念慮の評価対象期間が異なることなどが限界として挙げられる。

結論

地域住民における子どもの希死念慮と自傷行動の有病率は,予想以上に高かった。著者らの研究は,自殺のリスクを認識し対処するために,学校における支援スタッフの充実と,小児科医や子どもに関わる他の人々の意識の向上が必要であることを浮き彫りにし,人生における早期の段階から自殺予防に対して意識を向けることの重要性を示している。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(内田 貴仁)

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