イングランドにおける精神科退院後1年間の,労働年齢の成人及び高齢者における自殺とその他の理由による死亡:マッチングを用いたコホート研究

BR J PSYCHIATRY, 221, 468-475, 2022 Suicide and Other Causes of Death Among Working-Age and Older Adults in the Year After Discharge From In-patient Mental Healthcare in England: Matched Cohort Study. Musgrove, R., Carr, M. J., Kapur, N., et al.

背景と目的

精神科入院患者にとって,地域社会での生活へ復帰することは困難であり,退院直後に自殺のリスクが高まることが知られている。また,精神科入院経験のある患者では,そうでない者と比べて自然死リスクが高いことも知られている。にもかかわらず,精神科退院患者の死亡リスクに関するエビデンスは乏しい。

そこで本研究では,①精神科入院患者の退院後1年間の全ての死因による死亡,自然死,外因死,自殺と事故死,の絶対リスク,②退院後3ヶ月と1年後それぞれの時点における転帰を一般人口と比較した相対リスク,③これらのリスクが,性別,社会経済的に豊かではない地域に居住していることといかに関連しているかについて,労働現役世代と高齢世代に分けて推定を行った。

方法

Clinical Practice Research Datalink(CPRD)が連携する一般診療所,病院,死亡記録を用いて,2001~2018年に精神科から退院したイングランドの住民のコホートを作成し,18~64歳の患者と,65歳以上の患者に分けた。比較コホートは退院患者1名当たり最大20名をプライマリーケア記録によって特定し,登録された診療所,生年月日,性別をマッチングさせた。

死因は,国家統計局(ONS)死亡記録で確認し,ICD-10に基づいて分類した。

統計解析

退院後1年間の各転帰について,年齢層別及び性別ごとの累積発生率を算出した。生存分析として,各転帰を年齢群別に層化してCox回帰を実施した。

結果

主要コホートは,18~64歳の退院患者67,559名(労働年齢コホート)と,65~105歳の退院患者33,302名(高齢者コホート),マッチングした比較患者1,899,921名で構成された。労働年齢コホートでは年齢の中央値が39歳[四分位範囲(IQR)=19,75パーセンタイル:49,25パーセンタイル:30],高齢者コホートでは79歳(IQR=12,75パーセンタイル:84,25パーセンタイル:72)であった。退院患者のコホートはいずれの年齢群も,社会経済的に豊かではない地域の診療所に偏在していた。追跡中に診療所の転院により追跡打ち切りとなったのは退院患者のコホートで22%,比較コホートで7%となった。

退院後における死亡の年間累積発生率は,労働年齢では2.1%[95%信頼区間(CI):2.0-2.3],高齢者では14.1%(95%CI:13.6-14.5)であった。自殺リスクは最初の 3ヶ月間で特に高く,ハザード比(HR)は労働年齢では191.1(95%CI:125.0-292.0),高齢者では125.4(95%CI:52.6-298.9)であった(図)。両年齢層において,全死因による死亡,外因死,自殺の退院後3ヶ月のHRは,3ヶ月より後の期間よりも高かった。特に高齢者では,労働年齢では見られない退院後3ヶ月未満の自然死のHRの上昇が見られた(退院後3ヶ月未満でHR:3.5,95%CI:3.3-3.8,3~12ヶ月でHR:2.6,95%CI:2.4-2.7)。

外因死のリスクは,1~3番目に貧困な地域の労働年齢の成人での方が,最も裕福な地域より低かった。
 退院した労働年齢の女性における自殺の相対リスクは,一般集団の同世代の女性と比べて163.9倍(95%CI:100.3-267.7)であった。これは,同様の男性のリスクの2倍以上であった。

結論

退院後の患者において,自殺,アルコールや薬物に関連した死,事故死や自然死など,調査したそれぞれの死因による死亡リスクは,一般人口と比較して高かった。退院後の患者では,年齢に関係なく外因死や自然死のリスクが高いことから,特に退院後の最初の3ヶ月間は,全ての患者を注意深く観察し,最適なサポートを提供することが重要である。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(舘又 祐治)

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