酸化ストレスによって生ずる核酸の損傷と成人の精神障害との関係:系統的レビューとメタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 79, 920-931, 2022 Association of Oxidative Stress-Induced Nucleic Acid Damage With Psychiatric Disorders in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. Jorgensen, A., Baago, I. B., Rygner, Z., et al.

背景と目的

精神障害患者における身体疾患による死亡率上昇や平均余命の減少を報告した研究は枚挙にいとまがない。その原因の一つとして,精神障害の患者では老化が加速している可能性が指摘されている。

細胞内のDNAやRNAといった核酸は,活性酸素種による酸化ストレスに絶えず曝されており,特に酸化ストレスによるDNAの損傷は,それ自体が老化を媒介すると同時に,2型糖尿病やがんなどの加齢との関連が強い疾患の病因と考えられている。

従来の報告は特定の精神障害と酸化ストレスとの関係を扱っていたが,死亡率の上昇や老化促進の兆候は精神障害スペクトラムの垣根を越えて確認されている。そこで著者らは,精神障害をスペクトラム的に解釈し(transdiagnostic approach),酸化ストレスによる核酸の損傷(NA-OXS)との関連を調べた文献の系統的レビュー及びメタ解析を行った。

方法

PubMed,Embase,PsycINFOを用いて2021年11月16日までの関連文献を検索した。成人を対象とし,酸化ストレスによるDNAあるいはRNAの損傷を定量的に評価したもので,なんらかの精神障害群と健常対照群を比較した横断研究,またはなんらかの介入を行った前方視的研究を抽出した。酸化ストレスによる核酸の損傷としてはあらゆるマーカーを対象とした。

精神障害の患者ではNA-OXSが増加しているという仮説に基づき,精神障害群及び健常対照群の核酸の酸化マーカーの標準化平均差(SMD)を,認知機能障害群,精神病性障害群,物質使用障害群などのスペクトラム診断群別に比較し,マルチレベルメタ解析を行った。

結果

82の研究が抽出され,精神障害患者と健常対照群との比較205件,10,151名の患者と10,532名の健常者を含んでいた。

精神障害のある患者では,核酸を抽出した細胞外マトリックスや分子の違いにかかわらず,総じて健常対照群よりNA-OSXが高値であった。特に中枢神経系(CNS)から酸化マーカーを抽出した場合に比べると,末梢成分である血球・血清・尿から抽出した場合のエフェクトサイズが有意に高く,血球のDNAでSMD=0.99[95%信頼区間(CI):0.64-1.34],尿中のDNAでSMD=0.36(95%CI:0.15-0.56)であった。スペクトラム別では,認知機能障害群で最もNA-OXSが高値で,次いで精神病性障害群,双極性障害群であった。うつ病群では,血清または血球から抽出したDNAのNA-OXSは有意に高値(SMD=0.50,95%CI:0.10-0.90)であったが,尿から抽出したDNA及びRNAでは有意な差はなかった。物質使用障害群と不安症群の研究はほとんどなく,結論は出なかった。精度の低い研究を除外して感度分析を行ったが,結果は不変であった。

なお,介入研究は7報抽出されたが,異質性が高かったため,統計学的に有意な解析ができなかった。

考察

精神障害の患者では,特定の精神障害群に限らず,NA-OXSの増加が認められた。NA-OXSの増加は,精神障害患者において老化と関連した疾患の有病率や死亡率を上昇させる重要な生物学的機序かもしれない。

今回は主に横断研究を根拠としているため,因果関係は不明ではあるが,NA-OXSが様々な精神障害群や様々な細胞外マトリックスで増加しており,更にCNS以外の末梢で抽出した核酸でも増加していたことを鑑みると,NA-OXSの増加は,特定の精神病理の根底にある病態生理学的因子というよりは,精神の病状に付随する現象と考えるべきかもしれない。

258号(No.6)2023年3月9日公開

(荻野 宏行)

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