【from Japan】
がん患者遺族の希死念慮及び関連要因:全国多施設遺族調査の結果

Journal of Affective Disorders, 316, 91-98, 2022 Factors Related to Suicidal Ideation Among Bereaved Family Members of Patients With Cancer:Results from a Nationwide Bereavement Survey in Japan. Maho Aoyama, Mitsunori Miyashita, Kento Masukawa, Tatsuya Morita, Yoshiyuki Kizawa, Satoru Tsuneto, Yasuo Shima, Tatsuo Akechi

青山 真帆 先生

東北大学大学院医学系研究科保健学専攻 緩和ケア看護学分野

青山 真帆先生 写真

背景

死別後の遺族は一般人口と比較して,自殺リスクが高いと言われている。遺族の自殺や希死念慮は一般的に抑うつや病的な悲嘆と関連することが明らかになっており,早期発見・介入によって,遺族の自殺・希死念慮を減少させることができると考えられる。しかし,本テーマの研究エビデンスの蓄積は十分ではない現状がある。

本研究の目的は,日本のがん患者遺族において,希死念慮を有する割合とその関連要因について明らかにすることである。

方法

2014年と2018年に実施された二つの全国多施設遺族調査(それぞれJ-HOPE3研究とJ-HOPE4研究)の結果の二次解析を行った。合計17,237名のがん患者遺族の回答を解析対象とした。

希死念慮の有無はPatient Health Questionnaire 9(PHQ-9)の第9項目で評価し,抑うつはPHQ-8(10点以上を中等度以上の抑うつ),複雑性悲嘆はBrief Grief Questionnaire (BGQ)で評価し,その他,関連要因として,人口統計学的要因,患者療養中の心身の健康状態,ソーシャルサポートの享受,死別に対する心の準備状況などの項目を使用した。

記述統計量を算出し,希死念慮の関連要因を明らかにするためにロジスティック回帰分析を行った。

結果

本研究対象者全体の11%,うつ病ハイリスク者(PHQ-8合計10点以上)では42%が過去2週間に希死念慮をいだいていたと回答した。対象遺族の希死念慮を有する危険因子としては,遺族の抑うつ状態[オッズ比(OR):10.01],患者療養中の身体的健康状態の低さ(OR:1.24),患者療養中の精神的健康状態の低さ(OR:1.38),死別に対する心の準備が十分にできていなかったこと(OR:0.59),ソーシャルサポート不足(OR:1.42)が挙げられた(図)。

結論

本研究結果から明らかになった危険因子を死別前後に注意深く評価することは,遺族の希死念慮の早期発見・早期介入に繋がる可能性がある。一方,本研究の限界として,日本の専門的緩和ケアを受けたがん患者の遺族に限られること,横断研究であること,自記式データに基づくものであったことが挙げられる。

図.希死念慮の関連要因(患者要因のオッズ比のプロット)
図.希死念慮の関連要因(患者要因のオッズ比のプロット)
図.希死念慮の関連要因

258号(No.6)2023年3月9日公開

(青山 真帆)

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