【テーマ:COVID-19②】
中華人民共和国武漢市江漢区のCOVID-19回復者におけるマインドフルネスと心理的ウェルビーイングの関連:横断研究

J AFFECT DISORD, 319, 437-445, 2022 The Association of Mindfulness and Psychological Well-Being Among Individuals Who Have Recovered from COVID-19 in Jianghan District, Wuhan, China: A Cross-Sectional Study. Dai, Z., Wang, H., Xiao, W., et al.

背景と目的

COVID-19の感染は世界中で拡大しており,中国では2022年1月7日時点で133,404名の確定症例と,5,699名の死亡が確認されている。先行研究によれば,患者は死への恐怖を覚えたり,スティグマの対象となったりすることでうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するなどの精神的悪影響を受けている。

本研究では,望ましくない状況に積極的に適応する動的プロセスであるレジリエンスと,マインドフルネスに基づく介入に着目し,武漢市江漢区のCOVID-19生存者における抑うつ・不安・PTSD症状の有病率を調査し,心理的苦痛の軽減に寄与するマインドフルネスの潜在的メカニズムを検討するために横断研究を実施した。

参加者

2021年6月10日~7月25日の間に,江漢区の13の地域から参加者を集めた。COVID-19から回復した1,541名に対して,地域密着の便宜的サンプリングを通じて江漢区のA級三級甲等医院〔訳註:病床数500以上の大学病院などに与えられる最高等級の病院〕で再診と質問票による調査を実施した。参加者は,以下の七つの条件を満たすこととした。すなわち,①18歳以上,②COVID-19の感染歴がある,③中国語に堪能である,④尺度の評価に協力的であり,自主性がある,⑤モバイル通信機器とWeChatのアカウントを有する,⑥インターネットにいつでも接続できる環境がある,⑦研究登録前の1ヶ月間に,PTSD・うつ病・不安症に関する服薬をしていない。

測定

参加者のマインドフルネス,不安,レジリエンス,うつ病,PTSDを測定した。先行研究に従って,レジリエンスはマインドフルネスとうつ病との間,不安はマインドフルネスとPTSDとの間の潜在的媒介因子として機能し得ると仮定した。

中国語版Five Facets of Mindfulness Questionnaire-Short Form(FFMQ-SF)を用いて,参加者の過去2週間のマインドフルネスレベルを測定した。FFMQ-SFでは,5段階リッカート尺度で20項目を評価し,マインドフルネスにおける五つの相[①観察する(α=0.797),②描き出す(α=0.811),③意識して行動する(α=0.812),④無判断(α=0.755),⑤無反応(α=0.782)]を測定した。不安は全般不安症質問票(Generalized Anxiety Disorder Questionnaire:GAD-7)(α=0.950),レジリエンスはレジリエンス・スタイル質問票(Resilience Style Questionnaire:RSQ)(α=0.975),うつ病は,Patient Health Questionnaire(PHQ-9)(α=0.913),PTSDはImpact of Events Scale-Revised(IES-R)(α=0.963)で測定した。

データ解析

参加者の人口統計学的特徴を調べるため,記述的分析を実施した。部分的最小二乗構造方程式モデリング(partial least squares structural equation modeling:PLS-SEM)を用いて分析を行った。モデル構築の評価には,構造方程式モデル(structural equation model:SEM)を利用した。

結果

1,541名のうち,42.4%が男性,12.2%が重症患者,70%以上が50歳以上,87.7%が都市部に在住,85.2%が既婚,14.1%が学士以上の学位を持っており,61.5%が年間世帯収入60,000元未満,84.4%が感染後に入院し,15.3%は感染時に心理状態が良好な状態,45.7%は自分以外の家族に感染者がおり,29.5%は親族または友人に感染者がいた。喫煙者は12.5%,飲酒者は27.5%,体格指数(BMI)が異常(やせ,あるいは肥満)であったのは59.82%であった。

本サンプルでは,36.2%で軽度~重度の抑うつ症状,27.1%で軽度~重度の不安症状が報告され,15.2%がPTSDを有すると判定された。

マインドフルネスの平均点は(3.100±0.387),レジリエンスの平均点は(3.560±0.877)であった。本研究の参加者においては,マインドフルネスとレジリエンスの間の相関係数は,全てが統計学的に有意であった(p≦0.05)。

モデル適合度は標準二乗平均平方根残差(SRMR)=0.065,二乗平均平方根残差共分散(RMStheta)=0.086であり,適合が良好であることが示唆された。測定モデルでは信頼性と収束的妥当性が良好であることが確認された。媒介分析の結果,マインドフルネスは,抑うつ症状との間に直接的な負の関連(β=-0.031,p=0.021)及びレジリエンスによる媒介効果を通じて間接的な負の関連(β=-0.019,p=0.009)を示し,不安症状(β=-0.208,p<0.001)との間に負の関連を示し,不安症状による媒介効果を通じてPTSDとの間に負の関連を示した(β=-0.142,p<0.001)。

結論

武漢市江漢区のCOVID-19回復者において,マインドフルネスが抑うつ症状及びPTSDの症状と直接的または間接的に負の相関があることが見出された。

モバイルアプリケーションを介してオンラインで実施されるMindful Living With Challenge(MLWC)はマインドフルネスを基にした介入を行うための一つの選択肢となり得る。また,マインドフルネスがCOVID-19回復者のうつ病とPTSDに影響を与える複雑なメカニズムが存在する可能性がある。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(舘又 祐治)

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