精神疾患患者における遅発性ジスキネジア及び遅発性ジストニアの治療でのクロザピン使用に関する系統的レビュー

PSYCHOPHARMACOLOGY, 239, 3393-3420, 2022 A Systematic Review on the Use of Clozapine in Treatment of Tardive Dyskinesia and Tardive Dystonia in Patients With Psychiatric Disorders. Wong, J., Pang, T., Cheuk, N. K. W., et al.

背景

遅発性ジスキネジア(TD)は不規則で不随意かつ反復的な動きに特徴づけられる運動障害で,通常は舌,唇,顎,顔に症状が現れる。また,近縁疾患である遅発性ジストニアは体幹・頸部におけるゆっくりとした身悶えをするような動きを特徴とする運動障害である。TD有病率は第一世代抗精神病薬(FGA)を処方された人の24%であり,FGAに10年間曝露された後にTDが持続するリスクは50%,抗精神病薬に3ヶ月以上曝露した人のうち20~35%がTDを経験する。

TDに対する有効な介入の選択肢としてクロザピンへの切り替えが挙げられるが,有効性は十分に検証されていない。そこで本稿では,あらゆる精神疾患患者におけるTDに対するクロザピンの効果を検証するために,系統的レビューを実施した。

方法

PubMed,PsycINFO,clinical trials の各データベースにおいて“clozapine”,“dyskinesia”,“dystonia”を検索語として文献検索を実施した。主な組み入れ基準は,①精神疾患を原疾患に持つ患者の不随意運動治療に対してクロザピンが処方されている,②英文論文である,③抗精神病薬使用に関連したTD,遅発性ジストニア,他の不随意運動に関しての報告である,④観察研究の場合はTDに対するクロザピンの効果を主要評価項目としていることとした。

結果

検索の結果425報の論文を同定し,最終的に48報(13報が臨床試験,35報が1例または複数例の症例報告)が本研究に組み入れられた。

1例または複数例の症例報告に含まれた合計45名(うち,統合失調症スペクトラム障害30名)に対するクロザピンの平均投与量は50~1,000mg/日であった。クロザピンが異常不随意運動の減少に有効であったのは,統合失調症スペクトラム障害の患者30名中26名(86.7%),非統合失調症スペクトラム障害の患者15名中14名(93%)であった。クロザピンの用量は統合失調症スペクトラム障害では平均355mg/日であったのに対し,非統合失調症スペクトラム障害では平均152.5mg/日であった。また,投与開始から改善が得られるまでの期間は,統合失調症スペクトラム障害では3週間~2ヶ月であったのに対し,非統合失調症スペクトラム障害では7日~1ヶ月であった。

13件の各臨床試験には6~38名の被験者が含まれ,クロザピンの用量は15~1,800mg/日であった。効果は研究内でも研究間でも多様であり,同剤による劇的なTDの改善,症状の消失,不随意運動評点の87.5%低下,クロザピン終了後の症状再燃などであった。全体をまとめると,クロザピンによる異常不随意運動の改善はほとんどの試験で報告されているが,改善の度合いは多様であり,また,改善が得られない患者も存在していた。

限界

無作為化対照臨床試験は存在せず,含まれた研究の質も低いものが多く,試験間の異質性も高かった。また,多くの論文でクロザピンの血中濃度,投与開始から改善が得られるまでの期間,異常運動の評価尺度,過去の治療歴など,重要な因子が検討されていなかった。

結論

本研究により,統合失調症及び統合失調症以外の精神疾患におけるTDに対するクロザピンの有用性が明らかになった。統合失調症スペクトラム障害と非統合失調症スペクトラム障害の間で本剤の投与量及び反応時間が異なることから,様々な精神疾患に対して異なる治療プロトコルが必要である可能性が示唆された。TDの治療におけるクロザピン使用に関する質の高いエビデンスを提供するために,特に無作為化対照臨床試験などが今後必要である。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(内田 貴仁)

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