遅発性ジスキネジアと持効性抗精神病薬注射剤:日本における自発報告システムデータベースに基づく解析

J CLIN PSYCHIATRY, 83, 21m14304, 2022 Tardive Dyskinesia and Long-Acting Injectable Antipsychotics: Analyses Based on a Spontaneous Reporting System Database in Japan. Misawa, F., Fujii, Y., Takeuchi, H.

持効性抗精神病薬注射剤(LAI-AP)は,統合失調症の維持治療において再燃を予防する重要な手段であるが,多くの国で十分用いられないままである。普及が進まない原因の一つとして,経口抗精神病薬(O-AP)と比較した場合に,LAI-APは有害事象が起きた時に体内から迅速に薬剤を除去できないということがあるかもしれない。

遅発性ジスキネジア(TD)は,抗精神病薬治療によって生じる最も重篤で治療抵抗性の有害事象の一つであることから,より安全にLAI-APを使用するためには,LAI-AP治療とTDの関連を調べることが重要である。本研究は,日本の大規模自発報告データベースを用いて,LAI-APと同等のO-AP,LAI第一世代抗精神病薬(LAI-FGA)とLAI第二世代抗精神病薬(LAI-SGA),及び個々のLAI-APのTD報告頻度を比較検討した。

方法

本研究では,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)によるJapanese Adverse Drug Event Report database(JADER)の2004年4月~2021年2月のデータを使用した。日本で入手可能なLAI-AP(LAI-ハロペリドール, LAI-フルフェナジン, LAI-アリピプラゾール, LAI-リスペリドン, LAI-パリペリドン)または対応するO-APを,有害事象の被疑薬として投与されていた患者を対象とした。抗精神病薬の投与経路(LAIか経口か)が明確でない患者は除外した。

パリペリドンはリスペリドンの主な活性代謝物であるため,それらの経口剤は同等の抗精神病薬と見なした。一方,それらのLAIはそれぞれ注射間隔が異なるため,区別した。

TDの報告頻度を比較するために報告オッズ比(ROR)を計算した。RORが1未満であれば,TDが報告される頻度が低いことを示す。年齢,性別,経口FGAs・経口SGAs・抗コリン薬・リチウムの併用について調整したロジスティック回帰モデルを用いて,TDの調整ROR(aROR)と95%信頼区間(CI)を算出した。

結果

本研究では,8,425名の患者を対象とした。20歳未満の年齢群では,LAI-APを投与された患者は他の年齢群に比べ少なかった。また,FGAを投与された患者ではSGAを投与された患者に比べて,抗精神病薬の同時使用が有意に多かった。

LAI-パリペリドンは経口パリペリドンに比べてTDが有意に少なかった(aROR=0.13,95%CI:0.05-0.36)。他のLAI-APも同等量のO-APよりTDの報告頻度が低かったが,統計学的に有意な差はなかった。

LAI-SGAsに関連するTDの報告頻度は,LAI-FGAsより有意に低かった(aROR=0.18,95%CI:0.08-0.43)。

全てのLAI-SGAは,LAI-フルフェナジンよりもTDの報告頻度が低いことと有意に関連していた[aROR(95%CI)は,LAI-アリピプラゾールで0.11(0.04-0.35),LAI-リスペリドンで0.09(0.03-0.32),LAI-パリペリドンで0.02(0.005-0.09)]。LAI-フルフェナジンはLAI-ハロペリドールよりTDの報告頻度が高いことと有意に関連していた(aROR=8.58,95%CI:1.85-39.72)。LAI-パリペリドンのTDの報告頻度はLAI-アリピプラゾール(aROR=0.18,95%CI:0.05-0.73)とLAI-ハロペリドール(aROR=0.18,95%CI:0.03-0.96)に比べ有意に低かった。

考察

本研究結果は,LAI-AP,特にLAI-SGAはO-APよりもTDのリスクが低い可能性があり,臨床医がTDに関する懸念からLAI-APの使用を躊躇する必要はないことを示唆するものである。しかし,本研究では自発報告データベースを用いていたため,これらの知見を再現するために更なる研究が必要である。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(野村 信行)

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